第39話 空っぽな私たち


アシュタローテが投げ返したエネルギー弾は、正確に狙撃手の頭部を貫いた


 こっそり命を狙って来る様な相手に手加減する積もりは、一切無い

「どうしたの、お母さん?」

「気にしなくて良いのよ」

 不安がるバラキエラに優しく微笑み、誤魔化す


 命を救われたハーディでさえ、何が起きたのか理解出来ていない


「お前達、別々の方向で好きな様に暴れて来い」

「偵察隊を撹乱するのですね」

「流石、姉さん!合点でさ!」


 赤黒コンビに指示を出すと、ガウに近付き毛並みを撫でてやる

「この子はあと二人くらい乗れるかしらね?」

「グル?」

 ガウが甘えて鼻を押し付けてくる


「大丈夫だよ、アーシュ母さん」

「ガウは丈夫だから平気!」

 アシュタローテが翔べば、歩くよりかなり距離を稼げる


 歩いて二週間なら、途中で狩りをしながらでも、四日程で着くだろう


「ご免なさい、お母さん

 私がルシフェラさんの居場所を知らないから、転移出来なくて……」

 バラキエラが申し訳無さそうに謝るが

 

「いいえ違うわ、バラキエラは頑張ってるもの

 ……悪いのは全部ルシフェラよ!」

 顔を会わせたら、一発ブン殴ってやろうと決意を固めるアシュタローテだった



「ヘックチン!?やだ、また誰か噂してるわ」

 可愛らしく鼻をかみ、ティッシュのゴミを侍女が差し出すゴミ箱に入れる


「それにしても、あの子達がまさか、私の魔力を探知出来ないとは思わなかったわ

 そりゃ辿り着くのに時間かかるかぁ」

 時間がかかる分、地獄の被害は拡大する一方である

 アシュタローテひとり増えたお陰で、冥王軍は壊滅状態に追い込まれ、地獄の治安維持に影響が出始めていた


 なにしろ、地獄の亡者共は、地獄へ堕ちるだけあって、極悪非道な性悪ばかりが揃っている

 強力な武力で押さえ込む必要が有るのだ


 冥王軍本部の転移門が使えなくなり、シフトが回らなくなった為に、獄卒の勤労意欲が下がりまくりだ

 ロキの側近のヤマラージャが、力ずくで言うことを聞かせているらしい


 アシュタローテひとりで、この騒ぎだ

 もしも、ミカエラ迄が地獄へやって来たりしたら……


「地獄が終わるわね、冗談じゃ無いわ」

 魔界全体の統治者として、それは看過出来ない


 ましてや、原因を作ったのは、自分の気紛れと退屈しのぎである

 流石にバツが悪い


「ちょっと気になるから、ミカエラちゃんの様子でも見てみようかなーーーっと、あら?」

 水鏡に地上のミカエラの屋敷を映し出すが、姿が見えない


 ミカエラだけで無く、他の嫁達もひとりも居ないと言うのは考え難い


 まさかと思い、ペンティアムの元へ転移する


「あら、どうしたの?ミカエラなら留守よ」

「……そうみたいね、何処にお出かけかしら?」

 執務中だった大司教は、ルシフェラが慌ててやって来た事に心当たりが有る


 ミカエラを地獄へ送り込んだ張本人だ


「なに言ってるの?子供達を地獄へ誘い込んだのは貴女でしょ?

 ミカエラ達も、後を追ってそっちへ行ったわよ?会わなかった?」


 間に合わなかったーーーーーっ!?


「肉体を持つ者は「老いる」からねぇ、

 ミカエラの悩みも分かるけど、子供達を巻き込んだのは不味かったわね、あの子、子供達の事になると見境い無いわよ?」


「貴女が、もっと早くあの娘の肉体年齢を停めてあげれば良かったのよ!」

「だって、あの娘は「人間」だもの

 自然に天寿をまっとうさせてあげたいじゃない?師匠として」


「良く言うわね、このインチキ大司教!」

「どうせ子供達へのサプライズで、地獄ツアーでも考えたんでしょうけど、あの娘の性格を考え無かった貴女が悪い」

 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるペンティアムが堪らなく憎たらしい


「元、夫婦のよしみで忠告してあげるけど、早く地獄へ戻った方が良いわよ?」


 


 


 


 

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