第36話 母と子と


「ミカエラが来てるわね……」

「え?お母さんが?」

「分かるの?」

 アシュタローテの呟きに子供達が反応する


「分かるわよ、魂で繋がってるからね♡」


 いずれ来るだろうとは思っていた

 直接地獄へは入れ無いのだから、子供達の様にペンティアムにでも、頼んだのだろう


 ミカエラが来たからには、当然ミカエルを始め他の嫁達も付いて来てるだろう

 (戦力が充実するのは良いけど……私の楽しみの邪魔はさせないわよ)


「お母さん迎えに行こうよ」

 ラムエラはミカエラに会いたいようだ


「その前に、ルシフェラさんに会って「お薬」貰っておこうよ?」

「そっか、その方がお母さん喜ぶよね!」

 バラキエラの提案に、それもそうかと同意するラムエラ


 ガウの毛並みをモフモフすると、ベロンベロンと顔を舐めてくる

「ガウの事も、お母さんに教えてあげるからね」

「ガウッ!」

 すっかり子供達に懐いていた


「あのー、これからどうします?」

 ツマツヒメが恐る恐る聞いてきた


 本来、パンデモニウムへ転移する為に冥王軍本部へ来た筈が、転移門もろとも本部庁舎を壊滅させてしまった


「私が一足先にルシフェラ様の処へ転移して、報告しておきましょうか?」

 物騒なテロリスト一味に拘束されている立場から、何とか抜け出したいツマツヒメだ


「ガルルルル……」「ヒッ?」

 ガウがツマツヒメを睨んで、低く唸り威嚇する

 彼女の思惑を見抜いている様だ


 仮に、ルシフェラが子供達の事を聞いたとしても「あの子達が自力でやって来るのを、楽しみに待つわ」で終わるのは目に見えている


 しかし、わざわざ招待してくれたのだ、帰り道くらいは用意してくれるだろう


 くれるだろうか?



「ヘックチン!……誰か噂してるわね?」

 自室で食事中だったルシフェラはナフキンで口元を拭うと、食べかけの料理を下げさせ、ワイングラスを手に取る


 眼前に水鏡を出現させると、子供達一行の姿を映し出す


「あらあら、冥王軍本部を派手に壊してくれたわねぇ……これはロキが黙って無いかも知れないわね、先に手を打っておこうかな?」


 ルシフェラは冥王ロキの元へ念話を送る


 ロキも丁度、食事中だったが、眼前に水鏡が浮かぶと見知った顔が映し出される

「はあ~い、お久し振り~♡」


 はあ、と一つため息を吐くが、食事の手は止めない

「何の用?」

 旨そうなソースがかかったドラゴンテールステーキをナイフで切り分け、口に運ぶ


 魚介類が好物のルシフェラと違って、ロキは肉食系女子だ

 分厚い肉の塊にかぶり付くと、骨ごとバリバリと噛み砕く


「うわぁ……ワイルドねぇ」

「うるせえよ、用件は?」

「私の「お客様」が、ちょっとした手違いで冥王軍本部を壊滅させちゃったから、謝っておこうと思って……」


「……は?何言ってんだテメー?」

 ロキは理解が追い付かない


 あっという間に本部庁舎が破壊された為に、未だ報告も上がっていなかった


 この地獄で、冥王ロキの管轄下に有る冥王軍に喧嘩を売るなんて、まさしく自殺行為に他ならない

 ましてや、冥王軍本部が襲撃を受けるなど、想定外にも程がある


 ロキの執事が、会話の邪魔をしないタイミングで、彼女に耳打ちする


 本部襲撃から逃れた配下が、転移で逃げて来ていた

 入国管理官舎と冥王軍本部庁舎は壊滅、本部を中継する転移門は使用不能に陥り、しかも犯人の一人は、軍監ハーディ大佐であるとの目撃証言


「ハーディが謀反だと?舐めやがって!」

 ロキは文字通りテーブルをひっくり返し立ち上がると、側近を呼びつける


「全軍に念話で通達だ、逆賊ハーディを捕えろ!

 アタシの前に連れてこい……生死は問わん!」

「はっ!」


「サテナ、煉獄の統括はアタシの領分だ、余計な真似はするんじゃ無えぞ?」

「やあねえ、頼まれたって貴女の相手なんてご免だわ♡」

「こっちだって、テメーの相手なんざ願い下げだ!それよりテメーの客人ってのは何者だ?場合によっちゃ、容赦はしねえ」


「堕天使アシュタローテと、その子供達♡」

 

 


 

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