第35話 彼女たちのネガイ


「攻撃されてるわ!」

 クレセントが叫びながら、小さなブレスを放ち、飛んで来るエネルギー弾を迎撃する


「任せて!」

 セレロンが発射地点と思われる密林へ向けて、暗黒のブレスを吐いた

 バウッ!

 ズドドーーーーーン!


 密林に大規模な更地が出来、巨大なキノコ雲が立ち昇る

 もしも、敵対勢力が居たとしたら、無事では済むまい


「相変わらず容赦無いわね」

「もっと褒めて♡」

 褒めてる訳では無いのだが、セレロンはミカエラに構って貰えるのが嬉しくて仕方ない


 五十億年ほど昔、秩序の月の精霊龍オルデアが使徒としてハーフムーンとクレセントを産み出した

 しかし、混沌の月は常に太陽の影になる位置に在る為に、精霊龍のケイオスは使徒を産み出す事が叶わず、悲観に暮れて居た

 

 不憫に感じたペンティアムがケイオスの為に造り上げたのがセレロンである


 それから五十億年の間、セレロンはケイオスに支えて来たが、五十億年ぶりに地上に妹が出来た


 それがペンティアムの育てた聖女ミカエラである

 以後、十八年の間、月からミカエラを見守るのがセレロンの密かな楽しみだった

 九年前、ミカエラが窮地に立たされた時、自らケイオスへ願い出て地上へ降臨したのだ


 それから九年間、可愛い妹の側で暮らせてセレロンは幸せだった


 九年前にミカエラが六人の花嫁を迎えた時に、セレロンも立候補したかったが、「姉と妹」と言う他のメンバーには無いアドバンテージを選んだ事を後悔はしていない


 他の妻達を愛称で呼んでも、「お姉ちゃん」と呼ばれるのは自分だけの特権だ


「フンッ、ブレスだけは強いわよねっ?

 ブ・レ・ス・だ・け!」

 クレセントが焼き餅を焼いて減らず口を叩くが、何時もの事だ


「ありがとうね、お姉ちゃん!大好きよ♡」

 (大好き大好き大好き大好き大好き大好き……!)


 ミカエラのフォローに、いきなり宙返り飛行をして、舞い上がるセレロンの背中に必死でしがみ付くミカエルとサリエラ

「きゃああああーーーーー!」

「ちょっと?落ち着きなさいよ!」


 今度はグルグルと横ロールし始めた

「いいーーーーやああああーーーー!」

「落ちる落ちる落ちるーーーーー!!」

「きゃはははははは!」

 ミカエルの悲鳴は何故か笑い声だった


 まあ、いざとなれば二人共翔べるので、問題は無い、と言えば無いのだが


 あっという間に、攻撃を放ったと思われる密林に辿り着くが、かなりの広範囲が焼き払われ、敵対勢力の影すら見当たらない


 子供達の手掛かりとなりそうなのは、アガリアから聞いた「冥王軍」と言う組織だけだ

 先程の攻撃が、その相手だった可能性は高い


 (ちょっと、ヤり過ぎたかしらね?)


 そう思った矢先、今度は横合いの密林から少し威力の小さな、しかし密度の高いエネルギー弾が連続して発射される

 ドドドドドドーーーーーッ!

 バンバンバンバンッッ!


 クレセントの魔法障壁が全て弾き返すが、セレロンには命中していた

「くすぐったいわね」

 セレロンが息を吸い込んで、再びブレスを吐こうとするのを慌てて止める


「待って!お姉ちゃん、殺しちゃ駄目!」

 ミカエラの呼び掛けにセレロンは攻撃を止めるが、「ミカ、サリー、降りて貰える?」と言い出した


 二人がセレロンから離れると、一旦上昇して翼を畳み、更に速度を上げ、超音速を保ったまま敵が潜んで居そうな密林の中に突っ込んで行く


 ドドドドドドドドドドドーーーーーッ!

 凄まじい量の弾幕を突っ切ってセレロンが突入する

 

 バキバキバキドッカーーーーーーーーン!!

 木々をなぎ倒し、ソニックブームの衝撃波が地上を襲う

 ゴッオオオオオーーーーーーーー!!

 超質量のセレロンが通り過ぎた後が、まるで滑走路の様に開拓されていた


 潜んで居た冥王軍兵士達も、残らず衝撃波に吹き飛ばされて、ひっくり返っている

 実体を持つ者は、鼓膜が破れて平衡感覚も失っているだろう


「クレス、降りよう!」「うん!」

 クレセントが静かに降りると、ミカとサリーもやって来た

 セレロンは上空を旋回しながら警戒待機を続けている

 航空支援として、これ程頼りになるものは無い


「生存者を探すわよ!」

 


 

 

 


 

 


 

 

 

 

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