第33話 逃げ出すよりも進む事を
煮え滾るマグマが眼前に迫る中、ミカエラとミカエルは何の不安も感じなかった
長年信じて来たペンティアムの言葉に不安を持つ必要も無かったし、子供達を救い出すのに必要だと思えば、例え火の中水の中である
灼熱が肌や髪を焼く感触を感じながらも、眼をしっかりと開けたまま、互いの手を取り、マグマの中へ突入した
(久し振りね、この感じ……)
意識を失う直前、思ったのは後悔でも失望でも無く、かつて聖都を救う為に暴れまくった日々の高揚感に似ていた
「ただいま」
「お帰りなさいませ、お姉様方は無事に旅立ちましたか?」
執務室に戻ったペンティアムを大聖女ウリエラが出迎える
「ええ、一切迷う事も無く、地獄へと飛び込んで行ったわ」
「ふふっ、お姉様らしいですね」
「そうね……」
答えたペンティアムは少しだけ、優しく笑う
目が覚めると、満天の星空が拡がっていた
そんなに長く意識を失って居たのだろうかと、見回すと、守護天使のミカエルが手を繋いだまま寝ている
聖都は夏だったが、ここは少し肌寒さを感じる
聖都特有のジメっとした重さと違う、乾いた空気を感じながら枯れ枝を集めると、ポシェットからマッチを取り出し火を起こす
(ここが地獄……?何も無いのね)
まるで生き物の気配を感じない荒野が広がる夜景が、満天の星明かりに薄ぼんやりと照らされるのを見ていると、クレセントが声をかけて来た
「目が覚めた?驚くほど何も無いわね
まるで月みたい」
「付いて来てくれると思ってた」
「あ、当たり前でしょ?夫婦なんだから!」
暗いけど、クレセントが赤面してるのが分かる
照れ臭いのか小走りで駆け寄ると、ピッタリと密着してくる
「寒くない?」
「ん……平気、けどもう少しくっついても良い?」
「ふふっ、勿論よ」
相変わらず小さなクレセントの肩に腕を回し、優しく抱き寄せると眼を閉じ、顔を上げたので優しく口付けしてあげる
「クレス、抜け駆けは良く無いですよ?」
ミカエルが起きて来て、反対側から抱き付いてきた
時おりパチパチと爆ぜる焚き火をみつめていると、サリエラとデュアルコアとセレロンもやって来る
「ミカエラ様、ご無事でしたか」
「貴女達もね」
「セレロンが獲物を捕らえたので、食事にしましょう」
「流石、お姉ちゃん」
「もっと褒めて♡」
デュアルコアが手際よく用意していた調理道具を使い、三メートル程の蛇を捌き、串を刺して火にくべる
塩と胡椒だけの味付けだったが、淡白な兎肉に似た感じで、意外と美味しかった
ひとしきりお腹が満たされると、ミカエラが皆に謝る
「みんな、私の我が儘に付き合わせちゃって、ご免なさい……」
「水臭い事言わないの」
「夫婦なんだから当然ですよ」
「私は常にミカエラ様のお側に居ますよ」
「可愛い妹の為だからね♡」
「……ありがとう」
その夜は交代で火の番をしながら、横になった
翌朝、目覚めると先ずセレロンが進むべき方向を探る
全黒眼になって、頭の角をヒコヒコ動かすと。暫くして
「分かったわ!多分アッチの方!」
と、荒野の果てを指差す
ビジュアル的に少し怖いけど、コレが結構当たるのは経験で知っている
「多分」と付くのはご愛敬だ
乾燥した砂混じりの風から身を守る為に、全員が貫頭衣風のフード付きマントを着用して出発した
ミカエルとサリエラは、天使の翼をしまって居る
さあ、子供達を探すわよ!
地獄の果てで決意を新たに出発した
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