第32話 地上の魔女
「私を殺したら、もうあの子達に会えないわよ?」
「構わない、子供達に会えないなら貴女を殺して私も死ぬ」
ミカエラは本気だ
ブウン!と音を立てて、聖剣が光の刃に変化した
ミカエラもペンティアムがもしかしたら、人間では無い可能性は考えていた
光の刃なら、例え神だろうと悪魔だろうと、斬る事が出来る筈だ
「お姉様……」
「止めないでウリエラ、私は本気よ」
「ふむ、貴女の覚悟は良く分かったわ……
良いでしょう、地獄への片道切符、くれてあげるわ」
(ミカエラが私に楯突くとはね……立派な母親に育ったじゃない)
「それで、誰と誰が行くのかしら?
貴女達も、まさかミカエラ一人で行かせる積もりじゃ無いんでしょ?」
「そりゃ勿論、私とミカが……」
「私も行くわよ!」「当然よね」「置いてきぼりは嫌ですよ?」
クレセントとサリエラとデュアルコアまでも一緒に行くと断言する
「私は、自分で転移出来るから……リヴァイアサンに食べられるのは、ちょっと遠慮したいわね」
アガリアが控えめに言う
「そうだ!思い出した?
あの子達をリヴァイアサンに食べさせたって聞いたけど、どういう事なの師匠!?」
ミカエラがペンティアムに詰め寄る
「落ち着きなさい、説明するから
先ず、地獄へ生者は入れないのは知ってるわね?」
「アギーに聞いたわ、でも理由は知らない」
「理屈は良いのよ、肝心なのは結果ね
天使のミカエルは地獄へ入ったとたんに魂が消滅するわ」「……」
ミカエルが神妙な顔で話を聞いている
「次に、ヴァルキュリアのサリエラも、肉体は有るけど基本的には天使だから貴女もアウト、堕天すれば大丈夫だけどお勧めはしないわ、クレセントはドラゴンだからギリギリセーフとして、残る二人は肉体共々魂ごと朽ち果てるわね」
それでは誰も地獄へ行けない事になってしまうが、子供達は確かに地獄で「生きている」
「そこで、だ
地獄への裏口と言う物が存在するから、そこからこっそりと侵入する訳だ」
「それがリヴァイアサンなの?」
「奴の腹の中に、入り口のひとつが有る」
リヴァイアサンに飲み込まれても、死ぬ訳では無いらしい
「心配しなくても、一方通行だけど他にも入り口は在るわ」
「一番近いのは何処?」
「そうね……王城裏山の頂上、とか?」
「すぐ行くわよ!」
聖都の北側には険しい山々が連なる
王城の裏側は崖に依って外敵から護られて居る
普通に登れば、準備も含めて数ヶ月はかかる登山も、クレセントとセレロンの背に分乗する事で、三十分で着いてしまう
逆に、速度を加減したから三十分もかかったと言える
この星の出身じゃ無いセレロンにとって、通常飛行とは大気圏再突入を伴う弾道飛行なのだ
そもそもクレセントもセレロンも天空に浮かぶ二つの月からはるばる翔んで来たのである
「着いたわ」「着きましたね」
「……入り口とやらは、何処でしょうね?」
険しい山並みと異なり、山頂部は平らな窪地が広がるだけで、見た感じ建造物や洞窟の類いは見当たらない
「師匠、何処に在るの?」
「貴女達の足元よ?」
「足元?」
ペンティアムに言われて地面を見るが、大小の岩や石が転がるだけの景色だ
「大司教様?何処ですか?」
「ふふ、良く見てなさい?」
ペンティアムが魔方陣を展開すると、ミカエラ達の足元が一変する
「ええっ!?」「これは……」
ほんの数センチ先に、大穴が口を開け、その底には真っ赤に燃え滾るマグマが見える
「さっ、どうぞ?遠慮は要らないわよ」
「って言われても……」
クレセントもサリエラも流石にたじろいで居ると、
「この火口が入り口なのね?」
「凄いですね~熱そうです~」
実際に、マグマの熱が肌を焼く熱さを感じる
ミカエラとミカエルは、躊躇う事無く火口へ飛び込んだ
「「「ええーーーっ!?」」」
落ちた二人が灼熱のマグマに呑み込まれる様を見るしかなかった
「貴女達、行かないの?」
「いや、だって!」「ミカエラ様が死んじゃった?」「あら、妹よ……」
「面倒臭いわね」
ペンティアムが魔力を操作すると、残された四人の足元の地面が消えて、火口へと落とされる
「ヒエエエーーー?」「きゃあああっ!」
「あらま?」
飛べる筈のクレセントとサリエラとセレロンも何故か浮遊出来ずにマグマの中へ落ちてしまった
「ふふ、行ってらっしゃい、楽しんでね?」
ペンティアムは誰も居なくなった火口を閉じると、大聖堂へ転移した
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