第31話 巡る想い


数日ぶりに地上のミカエラ達の元へ戻ったアガリアは質問責めに合っている


「それで、二人とも無事なのね!?」

「ええ、色々有ったけど、取り敢えず元気よ」

「色々って何よ?

 危ない事してないでしょうね!」


 危ない事と言うか、地獄に居る事自体が異常なのだ


「えーと、私が聞いた限りでは、大気圏突入して、リヴァイアサンに食べられて、狼と巨大ミミズと戦って、憑依合体で変身して、億単位の黒鎧虫の大群を殲滅して、地獄の森を焼き払って、アーシュと合流してからは、地獄の門番の巨大な猫を倒し、冥王軍と一戦交えたくらいかしらね?」


 わずか数日で濃厚過ぎる体験談である

 ミカエラはリヴァイアサンに食べられたと聞いた時点で、白目を剥いて卒倒しそうになったが、ミカエルとクレセントが支えてくれた


「おのれリヴァイアサン!討伐してくれるわよ!子供達の仇討ちよ!!」


「落ち着いて、あの子達死んで無いから!」

 ミカエルとクレセントとサリエラに抑え付けられたミカエラを宥める

 ミカエラは青筋立てて、今にも飛び出しそうな勢いだ


 アガリアが確認したところ、ここ数日ルシフェラは現れていない

 やはり、ワザと子供達に聞こえる様に「若返りの霊薬」の話しを持ち掛けたに違い無い

 (おそらくルシフェラ様は子供達に夏休みの思い出を演出したかったんでしょうけど……ミカエラにそれ言ったら、マジで地獄へ殴り込みしかね無いわね)


 今頃、パンデモニウムの自室で、子供達の様子を観察しながら楽しんで居るに違いない

 もしかしたら、地上のミカエラの慌て振りも覗き見してる可能性もある


「ああーーーーーっ、

 私の為に命懸けで地獄へ乗り込むなんてムチャさせちゃったぁ!母親失格だわ!!」

「私も同罪ですぅ!私も同じ様に歳老いてますから……子供達に気を使わせて……」

 ミカエラの守護天使であるミカエルも、主人であるミカエラ同様に老いて見える

 実体の無い天使なのだから老いる訳無いのだが、本人に言わせると「愛の深さ」と主張する


 因みに、アシュタローテはミカエル同様に毎晩憑依合体を繰り返しているが、未だに若いままの姿を保っていた


「駄目よ、アーシュだけに任せといたら、子供達が危険だわ!」

 ミカエラは自分も地獄へ向かう決意を固める


「アギー、あの子達はどうやって地獄へ行ったの?地獄に生きた者は入れないって言ったじゃない?」

「それがね、私にも良く分からないんだけど、どうやら大司教が絡んでるみたいよ?」

「師匠が?分かったわ、会ってくる!」


 こう、と決断したら行動に迷いは無い

 早足で屋敷を出るミカエラにミカエル、クレセント、アガリア、サリエラ、デュアルコアが続く


 聖教会中央本部大聖堂の大司教執務室に入ると、ペンティアムと聖女ウリエラが何事か打ち合わせ中だった


「あら、お姉様お久し振りです!」

「来たわね、雁首揃えて?」

 ウリエラも二十三歳

 堂々とした大聖女としての貫禄さえ備わり、美しさにも磨きがかかり神々しさに溢れる佇まいだ


「師匠、子供達を返してください!」

 大きなテーブルにバン!と手を付き、ミカエラがペンティアムに迫る


「ふむ……もっと早く来ると思っていたがな

 意外と頼りにされて無いのね?」

「ふざけないで!」

「まあ、そう怒るな

 私はただ、親孝行をしたいと言う子供達に協力してあげただけよ?」

 のらりくらりと誤魔化そうとするペンティアムの態度に、ミカエラが遂にキレる


「卍丸!来い!!」

 聖剣を呼び出すと、大きな黒檀のテーブルを一刀両断する

 ズズン!


「おいおい、勿体ない……」

 ペンティアムの首筋に聖剣の切っ先を突き付けるミカエラ

「次は無いわ、子供達を返して!」

「「ミカエラ様!?」」「お姉様!」


 棄てられてからずっと、母親代わりに育ててくれた恩人に対して、初めて反抗するミカエラ


 ミカエルとサリエラとウリエラが驚くが、クレセントとアガリアとデュアルコアは眼が座って居る

「アンタ達は黙ってて」

 聞いた事も無い低い声で、三人を制すると、誰も何も言えなくなる

 

 

 


 

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