第30話 あと一歩、闇に踏み出せたなら
「ナニ……これ?」
冥王軍本部へ遅れて転移して来たツマツヒメは唖然とする
軍本部が、あろうことか燃えていた
燃え盛る炎の中で、仁王立ちで腕組みをするアシュタローテが高笑いしている
「アーーハッハッハッハッ!絶景、絶景!
久し振りにスカッとしたわ!」
逃げ惑う冥王軍兵士を余所に、ヴォルカノとイフリースの二人が飛び回り、炎を拡大して行く
あちらこちらで、炎に巻かれた施設設備が爆発し、更に被害を拡大して居た
アシュタローテ達の周りだけ、風が渦巻き、致命的な熱量を遮断している
「ねえ、お母さん……流石にヤり過ぎなんじゃ?」
バラキエラが恐る恐る聞いてみたが
「はあ?一息に全てを吹き飛ばして無いんだから、まだマシよ!」
ノリにノリまくっている今のアシュタローテを誰も止められない
慌てて本部建物から外へ逃げ出したツマツヒメが見たのは、冥王軍本部ビルが豪音を立てて崩れ落ちる様子だった
これだけの被害を出したのに、奇跡的に犠牲者が一人も出ていない
アシュタローテの無言の意を汲んで、ヴォルカノとイフリースが加減しながら炎を操ったからだ
子供達が無益な殺生を嫌った為に、アシュタローテなりに気を使った結果である
「お前達、やりゃあ出来るじゃねえか!」
「姉御のお陰でさあ!」
「久々に思い切り暴れる事が叶いました!」
ヴォルカノとイフリースも、まんざらでは無さそうだ
「冥王軍が……本部がまさか……」
ハーディは、あまりのショックに、立ち直れていない
「おい、変態大佐!」
「良い加減、その呼び方止めなさい!
それとヤり過ぎだ、貴様!!」
「何言ってやがる、これでもう冥王軍だの地獄だのシガラミから開放されるんじゃ無えのか?」
「……は?何言って……」
何千年も冥王軍軍監として生きてきたハーディには、アシュタローテの言葉の真意を図りかねた
「こんな不始末しでかしたんだ、もう地獄にも未練は無えだろ?生まれ変わる積もりで地上へ来るってんなら、この子達の師匠に紹介してヤっても良いわよ?」
「!?」
「お母さん!」「アーシュ母さん?」
「おっと、その前にきっちりルシフェラの所へ案内して貰わねえとなぁ?それとも、テメーの知識への欲望ってのは、そんな覚悟も無しにほざいてた戯れ言だったのか?」
「アシュタローテ、謀ったな貴様……!」
「まっ、好きにしろ
テメーがどうなろうと興味は無え、案内だけなら、その小娘で十分だ」
「ひえっ?」
すかさずガウが走り寄り、隠れて逃げようとしていたツマツヒメの襟首を噛んで、退路を絶つ
ハーディは今に至って、やっとアシュタローテの真意に気付いた
この堕天使は、子供達の知識が欲しければ地獄を捨てて地上へ来いと誘っているのだ
「……未知の知識……いや、しかし私には軍を預かる立場と責任が……」
とは言え、冥王軍本部庁舎まで破壊してしまったのが、ハーディの不始末どころか、本人の反抗であると断ぜられたら極刑は免れない
完全に追い込まれてしまった
潔く自決するか、地上へ逃亡するしか無い
「分かったわ、共にルシフェラ様の所へ行き、それから地上へ向かいましょう!
ルシフェラ様には自分で謝罪して、地上へ行く許可を貰います」
「おっ、ようやくふっ切れたか
最初から素直に生きてりゃ良いんだよ」
あくまでも己の欲望に忠実なアシュタローテだった
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