第29話 彼らの選択


「じゃあ、私は一度地上へ戻って、子供達の無事を伝えて来るわ」


 結局、子供達が無駄に殺すのは止めたいと主張した為、アガリアが地上へ転移で戻る事になった


 心配しているであろう、ミカエラ達に報告は必要だ

 放置してると、本当に地獄まで殴り込みに来かねない


 と言う訳で、ラムエラ、バラキエラ、ガウ、アシュタローテ、ハーディの四人と一匹で冥王軍本部へと向かう事になった

 と言うか、こちらが本家地獄殴り込み部隊と言っても差し支え無いだろう


 ツマツヒメも自分で冥王軍本部へと転移する予定だ

 ヴォルカノとイフリースの赤黒コンビは、そもそも冥王軍本部へ立ち入り出来る立場ですら無かったので、アシュタローテからの呼び出しがあるまで待機となった


 隷属の呪いの効果で、何処に居てもアシュタローテが召還出来るのだ


「じゃあ元気でね、ちゃんとご飯食べるんだよ」

「姉御!何か有ったら必ず駆け付けますから、遠慮せず呼び出してくだせえ!」

「皆様のご健勝をお祈りして、お待ちします」

「ありがとう」


 ヴォルカノとイフリースは何時も通りだ

 ヴォルカノはラムエラに、

 イフリースはバラキエラに懐いている

 ヴォルカノの扱いがペット並みなのは、知らぬが仏である


「では、転移魔方陣を起動する」

 ハーディが魔力を流すと、魔方陣が煌めき、回転しながら全員を魔力で包み込むと、フッと、その場から消え去る


 一瞬で景色が入れ替わる

 密林の泉の脇から、人工的な明るい広々としたホールへと転移したらしい


 良く見ると、円形のホールの外周に沿って、転移門が設置されている様だ

 それぞれが、別の場所と繋がっているのだろう


 ホールの中央部には、直径二十メートル程の巨大な魔方陣が用意されていて、おそらくは部隊単位で多人数を転移させられるのかも知れない


 何れにしても、子供達の転移と異なるのは、予め設置された門同士の移動しか出来ない事だ


 冥王軍本部にアシュタローテ一行が入ると、巨大な狼を連れている事もあって、注目を集める


「早速だが、ルシフェラの所へすぐに向かいたい、案内を頼めるか?」

「子供達の転移の秘訣を教えて欲しい、そうしたらルシフェラ様に取り次いであげるわ」

「……自分の立場を理解出来ていない様だな?

 私はお願いしてる訳では無い、勘違いは身の破滅を招くぞ?」

 土壇場でゴネ出したハーディに、アシュタローテが殺気を飛ばすと、周りに居た冥王軍兵士達が、何事かと、一斉に集まって来る


「……お母さん、なんかヤな感じ」

「大丈夫よ、バラキエラは私が守る!」

 不安がる妹をラムエラが庇い、前に出る


 (ホント、ミカエラそっくりなんだから……)

 アシュタローテはそんなラムエラの男気に優しい笑みを浮かべると、冥王軍へ振り返り今度は悪い笑みを晒す


「フン、立ち入り禁止だろうが、中から呼んでしまえば関係無いだろうが、オイ、お前達の出番だよ!!」


 アシュタローテの呼び掛けに応じて、黒炎竜ヴォルカノと赤炎竜イフリースが姿を現す


「おっ?ここは……」

「お前達、遠慮は要らん燃やし尽くせ!!」

「承知!」

「合点!」


 ヴォルカノとイフリースが辺り一帯を炎に包む


「うひょーーーーっ!気持ち良いぜえ!」

「大盤振る舞いだ、受け取れ!」

 炎竜コンビも、普段自分達を差別して、立ち入り禁止の場所で暴れられるのが嬉しいのか、盛大に炎を撒き散らす


 ハーディは既に腰を抜かして座り込んで居た

 まさか、ここまで無分別にテロ行為を行うとは想像もしていなかったが、それはあくまでもハーディ側の勝手な思い込みだ


 アシュタローテは、最初から交渉などに応じる積もりは無い

 気に入らなければ叩き潰すのに、何の躊躇いも無かった


 

 

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