第28話 シャル・ウィ・転移?


「変態がキレたわ」

「誰が変態か!地獄きっての秀才と唄われた私を変態呼ばわりするな!」


 アシュタローテとハーディは、どうにも相性が悪い

 と言うより、両名とも性格が歪んでいる


「しゃあ無えな、貴様とは一度ケリを着けなきゃならねえと思ってた処だ、言っておくが、そのオモチャが私に通用すると思うなよ?」

 アシュタローテはヤる気満々だ


 母親と成って九年間で、随分と丸くなったのだ

 これでも


「ヒトの話を聞けと、言ってるだろうが?」


「この期に及んで命乞いか?あいにく、遺言預かる趣味は無えよ」


「脳ミソまで筋肉で出来てるのか?貴様!」

 全く会話が成立しないので、仕方なくアガリアが間に入る


「アーシュも少し落ち着いて?

 ハーディ様は、どの様な用件でしょうか?」


「非常用の簡易転移門を使わせてやる代わりに、先程の話しを詳しく教えて貰えないだろうか?」


「はあ?何でテメーは上から目線で語ってんだよ!それが人に物を頼む態度かよ?」

 客観的にはアシュタローテの言い分が正しい


 ハーディも人を動かす立場が長い為に、物言いに配慮が足りなくなっている自覚が無い


「ぐっ……頼む、教えて貰えないだろうか」


「私達は教えられるほど知識が有る訳じゃないし……」

「コレ、知らない方が良いと思うなーー」

 バラキエラとラムエラがやんわりと断る


「何故だ?自分以外を転移させられるなんて、これ迄の常識が覆る大発見だぞ!」


「そこだよ?オバサンも、多分良くない結果に成るって分かってるんじゃない?」

 ラムエラは野生の勘で、文化に過ぎた知識が、どの様な結末に結び着くか見抜いていた


 まして地獄は、力こそが正義と言う世界だ

 新技術が平和利用される前に、軍事利用されるのは明白だ


 そうなれば、魔界と地上の均衡が壊れる可能性が高い


「それは……そうかも知れん、だがっ私は知りたいのだ!決して他人には伝えないと約束しよう!」


「ああん?テメーの約束なんざ当てになるかよ」

 確かに、真理を見透す竜眼を持つ悪魔はハーディだけでは無い

 ハーディが知識を得ると言う事は、必然的に知識の拡散に歯止めが効かなくなると言う事だ

 そこに本人の意思は介在しない


 しかし、教えようにも物理学や天文学、化学、哲学等、幅広い分野での正確な知識の下積みが無ければ、到底理解するのは無理だろう

 この世界には物理学と言う概念が無い


 子供達はペンティアムの元で、九年間それを習って来たからこそ、空間転移と言う新しい手法を編み出せたのである

 二人が素晴らしい才能に恵まれていたのも、ペンティアムとルシフェラの祝福のお陰なのだ


 何の予備知識も持たぬハーディに、物理学の基礎から教え始めても、理解出来るまでに何年もかかるだろう


「しかし、貴様の話しぶりだと?簡易転移門とやらは近くに在るのか?」


「これは非常用の携帯タイプなの、緊急時の連絡や避難を想定して指揮官に配布されてるのよ」


 ハーディはそう言うと、軍服のポケットから小さなコンパクトを取り出し、地面に置いて魔力を流した

 すると、コンパクトに嵌められた魔石が反応して半径五メートル程の魔方陣が展開する


「一度きりの使いきりだけど、五人まで転移可能だわ」


「転移先は指定できるの?」


「残念ながら、冥王軍本部への一方通行よ

 ただし、向こうへ行けば転移門が在るわ」


 となると、ラムエラにバラキエラ、アシュタローテとアガリアにハーディで行くしか無い


「ガウと一緒が良い~」

「歩いて行こうよお母さん」

 子供達はガウの毛並みに顔を埋めて、離れたがらない


「あら、別に狼と一緒に行けば良いのよ?

 変態の道案内なんて必要無いわね」


「私が居なければ、本部の転移門は利用出来んぞ?」

「皆殺しにして奪うだけよ、この転移門もね」

「!?」

 ハーディはアシュタローテと言う堕天使の事を完全に読み違えていた


 まさか、ここまで話しの通用しない相手とは完全に想定外だ

 しかし、子供達の手前、問答無用で鏖殺しないだけ、随分と丸くなっていると言える

 

 

 


 

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