第25話 見えない地雷


「「やった……やったよ、お母さん!」」

「ええ、上手くいったわね、良くやったわ二人共」

 アシュタローテは、喜んで胸に飛び込んで来たミラクラを優しく抱きしめた


 いつもの子供達より、少し身長が高い

 百六十センチは有るだろうか

 ちょうどミカエラと同じくらいの抱き心地に、心なしか頬を赤らめる

 年齢も十六歳程に成長して見える

 まさか八歳✕二で十六歳では無いだろう


「あ、姉御!ご無事ですか!?」

 ヴォルカノとイフリースが駆け寄って来た


 すると、気が抜けたのかミラクラの姿が二人の子供達に戻り、聖剣もブレスレットに戻った


「あ、あれ?戻っちゃった」

「お姉さん達、大丈夫?」


「チビッ子になっても、俺の事を心配して下さるとは!このヴォルカノ感動しました!」

 いちいち大袈裟な龍人である

「アシュタローテ様、宜しければ私共二人はお嬢様方にお仕えさせて頂きたく思います」

 イフリースが主であるアシュタローテに申し出ると、ヴォルカノも強く頷く


「そうです、お嬢の護衛はお任せ下さい!」


「言っておくけど、この子達のままでも、お前達に引けは取らないわよ」

「マジっすか?流石は姉御!」


「何がどうなってるのか、私が理解出来ない事が不思議だけど、貴様達の様な危険人物はさっさと地上へ戻って欲しいわね!」

 ハーディは竜眼が役に立たなかった事が不思議だった

 真理を見透せる事と、本質を理解出来る事は全く異なる


「帰ろうにも帰り方が分からないから、ルシフェラに会いたいのよ、このツマツヒメって小娘が案内してくれるらしいわ」


「そもそも、どうやって地獄へ来たのだ?」


「さっき、この子達が次元を切り裂いたでしょ?アレと同じ裂け目から入って来たわ」

「地上には、他にもあんな事が出来る人間が居ると言うのか?」

「私の伴侶だ」


 ハーディの目が遠くなる

「嘘は言っていない様だが……その伴侶とやらは、女性では無いのか?」


「地獄は遅れてるのね、向こうじゃそんなの普通よ?」

 と、アガリアが言うと

「お母さんは六人のお嫁さんと結婚したんだよ!」

 と、ラムエラが自慢する


「み、乱れとる……」

 意外と、ハーディは堅物だった


「アガリア、ルシフェラに会うにはどうすれば良い?帰り方が分からん」

「あーー、私も転移以外の方法知らないわ」


「あっ、あの……入国管理官舎に転移門が在りますので、ルシフェラ様に謁見ご希望なら、私もご一緒します」

 ツマツヒメはすっかり敬語になっている


「誰よ、この小娘?」

「貴女の後輩らしいわよ」

 アガリアに見られて、ペコリと頭を下げるツマツヒメ


 もしかしたら、現役の方が顔パスが効くのかもしれない


「転移?」

「出来るよ、私達も」

「ええっ!?嘘っ?」

 ラムエラとバラキエラの言葉にアガリアが驚く


「先生に聞いて出来る様になった!」

「大気圏突入?も、したんだよ!」

「あーーー、大司教様ね……普通は聞いただけで出来たりしないわよ」

 アガリアも遠い目になる


「んっとねー、コップの水を移動させた!」

「その水は、私がコップへ移動させたの!」

「んん?ちょっと待って」


 さらりと異常な事を言われた気がする


 普通は、本人以外の転移は出来ないし、知らない場所にも転移出来ないものだ

 今の子供達の話しだと、目に見た物質の空間移動を行った事になってしまう


 アガリアが普段使う「転移」魔法とは、根本的に違う魔法だと言う事になる


 大気圏突入の話は、ミカエラとクレセントから聞いて知っては居るが、アガリアも大空の向こうへ転移など考えもしないし、出来るとも思えなかった


 アガリアの常識では、己が見知っている場所同士を自分だけが転移出来るものだ

 そもそも、魔法が物理的干渉を起こすなんて、今まで聞いた事も無い


「ナニとんでも無い事教えてくれてんのよ、あの人外大司教は!?」


 

 

 

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