第23話 呪いの聖剣


「地獄丸!」「極楽丸!」

 ラムエラの掌に木刀が、バラキエラの指に指輪が顕現すると、暴力的な迄の濃厚な魔力が辺りを支配する


「何よこれ、凄いわね……」

 緊張して、ゴクリと唾を飲むアガリア


「アーシュ母さん、これでキスするの?」

「ちょっと、キスは忘れて……」

「お母さん、キスの先を教えてくれるの?」

 ラムエラもバラキエラも、そっちの事が頭から離れない


「そんな事より、ラムエラの聖剣はどうして木刀なの?」

「木刀を見て笑わないでくれたのは、アギー母さんが初めて!」

「あら、ラムエラらしくて似合ってるわよ?」

「えへへ……ホント?」

 (アギー、口が巧いわね、私、見た時爆笑しちゃったわ)

 (子供は褒めて伸ばすのよ、伊達にルシフェラ様のメイドやってないわ)


 その時、茂みからハーディが姿を現した

「アガリアここに居たか、と言う事は、こやつ等がテロリスト一味だな?」


 一軍の将が兵卒を差し置いて、先頭に出たがるのはどうかと思うが、ハーディの趣味だから仕方無い


「何故、天使が生きたままで地獄へ来られたのか?色々と聞きたい事は有るが、官舎を破壊したのは、そこの堕天使だな?」

 ハーディは「真理の瞳」で全てを見透すと、アシュタローテをビシッと指差す

 無駄にポーズを決めたがるのも、ハーディの趣味だ


「偉そうに他人の事を指差すんじゃ無いよ」


「あ、あのハーディ様?決して悪気が有った訳では無くてですね……」

 アガリアが何とか取りなそうと慌てるが、アシュタローテはヤる気ボルテージが爆上がりだ


「アーシュ母さんに手を出すな!」

 ラムエラが木刀を構えて、アシュタローテの前に出て、庇う様に立ち塞がる


「ラムエラ!駄目だよ?まだ、戦うって決まって無いでしょ?」

 バラキエラが慌てて、ラムエラを止めようと駆け寄った時、偶然木刀と指輪が触れてしまい、地獄極楽丸ミラクラが顕現する


「あら」「ええっ?」

「むっ!」

 初めて見たアガリアは驚き、ハーディは異常な魔力に警戒する

 アシュタローテは、合体の仕組みに気が付いた

 やはり、二人が一つになる切っ掛けは、聖剣で間違い無かった


「地獄極楽丸ミラクラ見参!さあ、死にてぇ奴からかかって来な!!」

 ((ええーーーーっナニこれ!?))

 木刀を構えて大見得を切るミラクラだが、今回は二人の自我が在った

 

 ルシフェラが聖剣の魔方陣を弄って改編させたからだが、ラムエラもバラキエラも当然、自分達がミラクラに変身した後の記憶が無い


 慌てて、自分の背格好を確認しようとするミラクラの様子が、前回と違う事にアシュタローテは気付いたが、初見のハーディは余りにも暴力的な神気と魔力に警戒心MAXである


 咄嗟に後ずさると、腰に吊るしていた魔道兵器を構える


 魔道兵器とは、ハーディが研究開発した、地獄に溢れる魔素をエネルギーに変換して発射可能な銃器である

 この魔道兵器の実用化で、能力差に関係無く、獄卒が誰でも兵士として戦う事が出来るようになった


「大佐!お下がりください!」

 冥王軍兵士達が、ハーディを護ろうと前に出てくる


「いや、やられる時はどこにいてもやられるものだ」

 ハーディは動かない

 動けなかった

「このバケモノの魔力を見ろ、地獄が更地に変わってしまうぞ?全軍を指揮する者が弾の後ろで叫んでいては勝つ戦いも勝てんよ」


 ハーディの竜眼を以てしても、ミラクラの存在を理解する事は出来なかった

 何故、生者が地獄に居られるのか?

 何故、堕天していない天使が消滅しないのか?

 ミラクラの存在は世界の理から逸脱して居る


 ハーディを始めとした冥王軍兵士達が、一斉に魔道兵器を構えたのを見たミラクラは

「何か妙チクリンな物を並べて、まさか、それで俺様に勝てるとでも思ってんのか?ああ!」

 (うわーーー?何か身体が勝手に喋ってるう?)

 (キレた時のお母さんみたい……)


「ヤれるモンならヤって見やがれ!

 真っ赤な太陽握り締め、熱くてもグッと我慢する!めげねえ!負けねえ!振り向かねえ!誰が呼んだか地獄極楽丸、奇跡のミラクラとは俺様の事よぉ!!」

 (恥ずかしいーーーっ!)

 (かあっこ良いーーーっ!)

 二人の反応は違ったが、その場に居た全員の印象は「恥ずかしい奴」だった


 (ペンティアムも、どんな個性を付帯させてるのよ……)

 アシュタローテは呆れていた


 ただ、一人

 黒炎竜のヴォルカノだけはキラキラした目でミラクラを熱く見詰める


「カッコいい!アネゴと呼ばせてください!」

 

 


 

 

 

 

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