第21話 軍監ハーディ
「では貴様は、地獄へ迷い込んだ子供を探しに来た母親を案内して居た、と言う訳だな?」
不審なアガリアを尋問したハーディは、そう結論付ける
「ええ、その通りよ
歩くのに邪魔だからと、大密林に道を造ったのが、その母親で、私は確認の為にここへ来ました」
「しかし、ルシフェラ様が「若返りの霊薬」の話しを持ち掛けたと言うのが理解出来ないわね?」
「そうですよね?ルシフェラ様なら、そんな物必要としないのに……」
共に疑問に思うのは、何故ルシフェラが、ミカエラにその話しを持ち掛けたのか?と言う一点である
それではまるで、ワザと子供達を地獄へ誘った様な話しではないか
(子供達の母親の一人である人間とは、随分懇意にされて居られる様だし、一度ルシフェラ様の本意を確認すべきかも知れんが……)
子供達を探しに来た母親が、入国管理官舎を破壊したテロリストである事実も看過する事は出来ない
先遣隊も連絡が途絶し、一刻も早く状況を確認しなければならない
「私は、中隊を率いて現場へ向かう
アガリアはどうするのだ?」
「私も、一度子供達の無事を確認したいので、先に転位で戻ります」
「生身で在るならば、生きたまま地獄へ来られる筈は無いのだがな……」
「もし、あの子達に何か有れば、母親が、地獄を破壊し尽くすでしょうから」
「堕天使アシュタローテか……一度手合わせしてみたいものだが」
「大佐!出立準備完了致しました!」
ハーディの部下が呼びに来た
指揮官として、自ら前線へ赴き調査するのは責任感と言うより、ハーディの趣味でもある
「それでは、私は一足先に……」
「うむ、あちらで会おう!」
アガリアは一人でアシュタローテの魔力の気配へと転位する
「ねえお母さん、キスはするほど気持ち良くなるって本当?」
「アーシュ母さん、どうしたら上手にキス出来る様になるの?」
「お母さんみたいに、毎日毎朝、何度もキスしてれば気持ち良くなる?」
「お母さん達は、夜も毎晩キスしてるんだよ?」
「そうか~、それくらい頑張れば上手になるのかな?私もラムエラと毎日キスしよっと♡」
「毎日……?してくれるの?」
「うん!私、大きくなったらラムエラと結婚する!」
「え?け、結婚って貴女達……何言ってるか分かってるの?」
アシュタローテは会話に付いて行けなかった
「お母さん達も、女同士で結婚したもの!
全然普通だよ」
女同士のカップルに産まれた姉妹だから、倫理的にも問題は無いのかもしれない
少なくとも、「血」の繋がりは無い
「アーシュ母さんはニクヨクに負けたってお母さんが言ってた」
「お母さん、ニクヨクって何?」
「……貴女達……ちょっと、キスから離れようか?」
少し離れた所で、ツマツヒメとイフリースとヴォルカノがクスクスと忍び笑いをしている
「キッ!!」っとアシュタローテが殺気を放つと、さっと目を反らす三人組と一匹
「子供達にな~に教えてんのよ、アンタは?」
アガリアは、そんな現場に現れた
「冗談じゃないわよ、今まで何処に行ってたのよ?」
「こっち(地獄)に帰って来ると、色々と知り合いに会ったりするのよ、そんな事より貴女達、無事で良かったわ」
アガリアは二人の子供達を抱きしめる
「アギー母さんも来てたの?」
「……怒ってる?」
「まさか!貴女達だけで、地獄へ来れた事に驚いてるわ……でも、ちゃんと生きてるのよね?」
「先生に裏口を教えて貰ったの!」
「リヴァイアサンのお腹の中!」
全く理解出来ないが、ペンティアム絡みと聞いて、考える事をやめた
「それはそうと、道が随分と延長されてるみたいだけど、アーシュ、またヤらかしたの?」
「私じゃ無いわ、子供達よ」
「あっ、その件で、冥王軍が動いてるわ、もうじきハーディ大佐がここへ来るわよ」
ハーディの名を聞いた三人組がビクリと身を固める
事実上、命令された事を成し遂げられて居ない
それどころか、イフリースとヴォルカノに至っては、任務失敗のうえにアシュタローテの下僕にされてしまった
どう考えても無事には済まない
下手をすると、ハーディが熱中している魔道兵器の実験台にされてしまいかねない
「アギー母さん聞いて!私達キスして合体出来るのよ?」
「……はい?」
「私とバラキエラがキスすると、合体して変身するの」
得意気に話す子供達の会話に付いて行けないアガリアは、アシュタローテを見つめて一言
「アンタ、子供にナニ教えてんの?」
「アタシかよ!?」
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