第20話 覚醒


「あらら、暴走して負けちゃった」

 ルシフェラは水鏡に映る光景にため息を吐く


「魔力の調整が出来ないのは、常に全開全力で闘ってるからかしらね?自分に出来る事が理解出来ていないと言うより、自分が何者かすら分かって無い感じだわ?だったら……」


 ルシフェラは何かを考えてから、指をパチンと鳴らす


 地獄丸と極楽丸に刻まれた魔方陣の紋様が、少しだけ変化する


「次にあの子達が戦う時が楽しみね♪」


 ツマツヒメは猫が居なくなったのに、何故かアシュタローテとミラクラが闘い出したのに驚いたが、やがて前回同様にミラクラが子供達に戻ったのを確認して、隠れて居た茂みから顔を出す


「あらぁ、また寝ちゃってるわね、この子達」

「前にも同じ事が?」

 ガウが子供達に寄り添って、しきりに匂いを嗅いでいる


「昨夜、虫の大群に襲われた時に、変身して戦ったのだけど、今と同じ様にブレスを吐いたら寝ちゃったわ」


 (過剰な魔力行使に、スタミナが追い付いていないのか……戦い方も力任せで、まるで出鱈目だわ)

 アシュタローテは眠る二人の頭を優しく撫でながらヴォルカノを呼びつける


「おい、何処かに水が無いか探して来い」

「冗談じゃ無えぜ、何で俺様が……」

 アシュタローテが殺気を放つと、気を付け!をしてダッシュで水を探しに行った


「小娘、ルシフェラの所迄はどのくらいかかる?」

「ツマツヒメ!ちゃんと名前で呼びなさいよ

 歩いてたら、何ヵ月かかるか分からないわよ?地獄は広いんだから……」

「そんなにか」

「まあ、悪魔も全員が転位出来る訳じゃ無いから、拠点同士を繋ぐ転位門は在るけどね?」

「その門とやらは、何処に在る?」


 一番近いのは、アシュタローテがブレスで吹き飛ばした入国管理官舎だが、今頃ハーディ率いる冥王軍がこちらへ向けて進軍中だろう


「軍隊だと?」

「ハーディ様が一個中隊を率いて、こちらへ向かってるわ、グズグズしてたら、ヤられちゃうわよ?」

「道を進んで来るなら、もう一度ブレスで吹き飛ばしてしまうか……」


 文官のツマツヒメには、考えすら出来ない野蛮な発想に呆れ果ててしまうが、実際にヤッてしまいかねない危うさがある


 いかにハーディとは言え、あのブレスを近距離で喰らって只で済むとは思えなかった


 この堕天使の目的は、子供達をルシフェラ様に合わせる事らしいが、そもそも、話し合うと言う発想は無いのだろうか?


 キチンと筋を通して話せば、ハーディ様も無下には扱わないと思うのだけど

 などと考えていると、ヴォルカノが戻って来た


「あ、あのっ!少し離れた場所に、泉が在りました!」

「……この子達に飲み水が欲しかったのだけど、まあ良いわ、案内なさい」


 道を外れ森の中を進むと、小さいながらも綺麗な水を湛えた泉が在った


 アシュタローテが布を水で湿らせて、子供達の顔を拭いてやると、ほどなく二人共目を覚ます

「……お母さん」

「猫は?お母さんがやっつけたの?」


「貴女達が変身して、やっつけたのよ」

「え?あっ、私バラキエラにキスされて……」

 ラムエラが真っ赤になる

「それじゃ、合体出来たの?キスで?」

 とバラキエラもモジモジする


「え?やっぱりキスで合体するんですか?

 お二人って、そう言う関係……?」

 ツマツヒメまでが的外れな事を呟くから、二人共ますます赤くなる


「はいはい、二人共少し落ち着きなさい」

 アシュタローテがその場を取りなそうと声をかけるが、子供達の妄想に拍車をかけてしまう


「ねえ、お母さんもミカエラ母さんとキスして合体するんだよね?」

「え?ええ?」

「アーシュ母さんも、やっぱりキスすると……気持ち良いの?」

 バラキエラもラムエラも、興味津々でグイグイ聞いて来る


 アシュタローテとミカエラが合体するのは、夜の夫婦生活の話しなのだが、子供達は勝手に誤解している


「そりゃ、大好きな人とキスするのは気持ち良いわよ?でもね、私とミカエラがそう言う事をするのは……」

「愛し合ってるからだよね?」

「え?ええ、そりゃ勿論そうだけど……」

「大丈夫だよお母さん!私、ラムエラの事が大好きだから!」

「私もバラキエラ大好き!」


 曇りの無いキラキラお目目で熱弁する二人を前に、深いため息を吐くアシュタローテだった


朝っぱらから子供達の前でイチャイチャしてるミカエラが全部悪い

 

 


 

 

 

 


 

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