第18話 ゲートキーパー


 パンデモニウム

 地獄に於ける悪魔の首都で在ると同時に、悪魔王ルシフェラの居住する宮殿でもある


 九階層在る地獄の最下層に位置しており、七階層より下は、第五位階以下の悪魔は立ち入り禁止と成っている


 地獄に於けるルシフェラの立場は、人間界に於ける「神」と同一で不可侵の存在であった


 一般的な宗教感とズレが在るが、この世界ではそう言う事になっていた


 当然、ルシフェラの身の回りの世話をする侍女も、それなりの魔格を求められる

 アガリアは第三位階であり、ツマツヒメは第四位階の悪魔である


 因みに、冥王軍監として辣腕を奮うハーディは第二位階

 イフリースとヴォルカノの様な、悪魔に使役されるだけの竜人など、悪魔としてさえ認識されない

 魔族の中でも、悪魔とはエリートなのだ


 そして、悪魔の階級は実力主義だ

 悪魔王ルシフェラや冥王ロキの様に、神格を持つ者も居るが、人間の様な貴族社会では無い


 ルシフェラとロキが並び立つのは、其々の立場、役割、支配地域が明確に分担されて居るお陰である


 地上に現れたアシュタローテが「魔王」と呼ばれたのは、単に人間側の都合であって、アシュタローテが地獄の魔王と言う訳では無い


 如何にアシュタローテが桁外れの強さを持っていても、指パッチン一つで世界を作り替えてしまう事の出来るルシフェラには叶わない


 ペンティアムなら良い勝負が出来るかも知れないが、折角苦労して調整した世界を壊す積もりは彼女には無かったし、そもそも対立する理由も無い


 ミカエラの子供達に「若返りの霊薬」の話しをそれとなく聞かせ、仕込みが巧く行ったとご機嫌なルシフェラは、早速ラムエラとバラキエラの魂を検索する


「あら、もう地獄へ辿り着いてるじゃない?

 流石、ミカエラの子供達だわ」


 お気に入りのワインを片手に、水鏡に映る情景を観察する


「あの子達、聖剣を手に入れたのね?

 大司教にしてはナイスサポートだけど、ちょっと甘いんじゃない?」

 二人が生きたまま地獄へ来ても大丈夫な様に、裏で色々と手を回したルシフェラには言われたく無いだろう


 それにしても、アシュタローテが子供達を助けに地獄へやって来たのは想定外だった


 直情的なミカエラなら兎も角、現実主義者のアシュタローテも、思った以上に母親としての感情が芽生えていたらしい


「母親が一緒なら、少し強めの試練を用意してあげようかなーっと!地獄の門番と言えばケルちゃん(ケルベロス)だけど、ちょっとバージョンアップして盛り上げちゃおっと♡」

 ルシフェラが指をパチンと鳴らすと、三つ首のケルベロスと双頭のオルトロスが顕現する


「いっそのこと合成して……でも、頭だけ五つも在ってもバランス悪いわね、だいたい私ってば猫派だしぃ、猫の方が狩りとか得意そうじゃない?」


 ルシフェラが再び指をパチンと鳴らすと、パンデモニウムを目指して居た一行の前に、体長二十メートルの巨大な猫が現れる


「なあーーーーおぅ」


「大きな猫さん~♡」

「……可愛い」

「ちゅ~る有ったかな?」


 ルシフェラの思惑とは少しズレた反応を見せるラムエラ、バラキエラ、アシュタローテの三人だが、ガウは毛を逆立てて唸り、ツマツヒメとイフリースとヴォルカノは白目を剥いて気絶しかけていた


「さあっ!その子供達を可愛がっておあげなさい?」

 ルシフェラが悪女っぽく命令すると、猫の背中から刺だらけの蔦状の触手が飛び出てきた


 ビシュルルルルーーズパアーーーーン!!


「噂のゲートキーパーか?

 しかし、犬だと聞いた様な気がするが……?」

 ラムエラとバラキエラとアシュタローテの三人は、宙に翔んで攻撃を避けると、地上の三人と一匹から猫を引き離す為に、ワザと猫の顔の前を翔び回る


「うにゃにゃ……シャアーーーッ!」

 猫は爪で引っ掻こうと、手や尻尾を振り回し、触手を伸ばすが、空中を自在に翔び回る三人に中々当たらない


 翻弄される事に苛ついた猫は、背中の触手を伸ばすと、先端からエネルギービームを発射した

 ズビーーーーーム!


 七本の触手がビームを乱射しながら、標的を追い回す

「あわわわわ!何アレ!」

「良く分かんないけど、当たったら痛そう」

「良く見なさい、当たらなければ、どうと言う事は無いわ!」


 見た事の無い攻撃に狼狽える子供達に、的確なアドバイスを与えるアシュタローテは余裕だ


「猫はじゃらす物で、じゃらされるのは嫌ね」


 とうとう、七本の触手以外に、尻尾と両目と口からビームを発射し出した


「こんな小さな目標に、そうそう当たるものか!」

 すると、猫の背中の触手の周りに有る花弁の様な物が、背中から離れて飛び回る

 更に、花弁がビームを反射拡散して、全方位攻撃をし出した


 大密林があちこちで燃え上がり、爆発している


 巻き込まない様にしていた一匹と三人の近くにも拡散ビームが着弾していた

 ズドドオオーーーーン!

「「「ひえええーーー!」」」


「ちょ、ちょっと貴女達、昨夜みたいに合体してさっさと、やっつけなさいよ!」

 ツマツヒメが子供達に叫ぶ


「合体?」

「何の事?」

 当の本人達は、合体していた時の記憶が無い

 一気に強力な魔力を放出したせいで、肉体的に限界を超えて気絶してしまったからだ


「ほう……面白い、私も見てみたいわ」


「良く分からないけど……地獄丸!」

「極楽丸!」

 二人が聖剣を顕現させると、アシュタローテはラムエラの木刀を見て失笑する


「ぷっ、何よ、木刀って……木刀……くくく……アハハハハハ!」


 水鏡で状況を見ているルシフェラは、アシュタローテが笑う姿を見て目を丸くした

「……嘘でしょ?」


 ミカエラや子供達との生活は、暗黒の堕天使に、人間らしい心を芽生えさせたと言うのか?


 或いは、やはりミカエラが特別なのか


 

 

 


 

 


 


 

 


 

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