第17話 都麻都比賣命ツマツヒメ


 冥王軍偵察先遣隊のツマツヒメは恐怖で動けなかった

「何なのよ、アレは……?」


 異常な魔力の発生源と思われる地点へと転位して、様子を見に来たは良いが、地獄でも指折りの極悪案件、黒骸蟲の大暴走「G-shock」に遭遇してしまう

 本来ならば、冥王軍を大隊規模で対応しなければならない非常事態を、たった独りで殲滅してしまった存在が目の前で寝ている


 しかも、戦って居た時は独りだったのが、いつの間にか二人の子供に変わっていた

 あの子供達を守って戦ったのだろうか?

 では、当の本人は何処へ消えた?


 考えれば考える程、頭が混乱して訳が分からなくなる

 一緒に来ていた姉のオオヤツヒメは「本部へ連絡しに行く」と言い残し、転位したまま帰って来ない

 どうせ、上司に報告したら勝手気儘に呑気にしてるに違いない

 姉は昔から、そう言う性格だ

 恐らく、ここへは戻って来ないだろう


 いっそ、自分も、何処かでサボってしまえれば、どんなに楽か

 しかし、先遣隊として派遣される後詰めは、恐らく赤炎竜イフリースと黒炎竜ヴォルカノの二人だ

 あの二人に睨まれて、只で済んだ獄卒は居ない

立場的には自分が格上だが、文官の自分では歯が立たない


「はあ、……私ってつくづく不幸だわ」


 夜明けが近付き、ガウの耳がピクリと動く


朝焼けの空に、イフリースとヴォルカノの姿が浮かび上がる

 それと、見覚えの無い堕天使らしき黒き翼が一人……

 (誰かしら?ハーディ様が連れて来た、新人さんかな?)


 道から離れた茂みに隠れたまま、様子を伺っていると、狼がムクリと起き上がり、低く唸る


 狼の動きに目が覚めたのか、二人の子供達も起き上がる

「どうしたの?ガウ」

「ラムエラ、お母さんだ!」

「え?アーシュ母さん?」


 アシュタローテは地上に降りると、子供達の元へ駆け寄り、優しく抱き寄せる

「無事で良かった……」


「どうしたの?お母さん」

「どうやって来たの?お母さんもリヴァイアサンに呑まれて来たの?」

「リヴァイアサン?何だ?それは」

「あのね……」


 子供達は、アシュタローテにここまでの経緯を話す

 アガリアに聞いても分からなかった事、ペンティアムに転位を教えて貰った事、熱圏から大気圏突入して燃えた事、リヴァイアサンに呑まれて地獄へ来れた事、狼の群れに教われたり、巨大ミミズを返り討ちにした事、ミミズの肉が意外と美味しかった事、狼を手懐けた事、ゴキブリの大群に襲われた事……


「あれ?そう言えば、ゴキブリはどうしたんだろう?」

「うう……虫嫌い」


「何にせよ、貴女達が無事で何よりね、

 さあ、帰るわよ」

 アシュタローテは子供達と帰ろうとするが、そこで、ふと気付く


 どうやったら帰れるのだろう?


「……これは、どうしてもルシフェラに会わなきゃ駄目みたいね、はあ……」


 バラキエラは、母の後方で跪く二人の竜人に気付く

「お母さん、あの人達だれ?」


「ああ、忘れてた、新しい下僕よ

 おい、お前達ルシフェラの居場所へ案内しなさい」


 言われてイフリースが答える

「畏れながら、我等ではルシフェラ様の元へ近付く事すら叶いません」

「もっと上位の悪魔じゃ無えと、地獄の下層には立ち入れ無えんだよ」

 ヴォルカノが続ける


 それを隠れて見ていたツマツヒメは驚愕した

 (イフリース様とヴォルカノ様が下僕にされてるーーーー!?どうなってるの?)


「ふん、格下の貴様達に期待した私が間違っていたか、では用は無い、殺すか」

「「ヒッ!」」


「お、お待ちくださーーーーーい!」

 ツマツヒメは思わず飛び出してしまった

 (ああーーーーっ、何も考えず思わず飛び出ちゃったわ!どーーーしよーーー?)


 突然、茂みの陰から飛び出して来た不審な娘に、一瞬気を取られたが、アシュタローテは無視してイフリースとヴォルカノを殺そうとする


「ちょっと!無視しないでよ?」


 心底嫌そうな顔で、仕方無くツマツヒメを見るアシュタローテ


「何か用?小娘」

「こ、小娘?

 私にはツマツヒメと言う名前があります!」


「小娘に用は無いわ、見逃してあげるから、とっとと消えなさい?どうせ、何も考えず、思わず飛び出して来たって処でしょ?」

 (ギクッ!見抜かれてるう)


「貴女が、茂みの陰から様子を観察してた事くらい、最初から知ってたわよ

 転位魔法が使えるから、偵察して来いとか言われてるんでしょ?お疲れ様ね」


「え?バ、バレてましたぁ?」


「バレバレよ?

 はら、帰って良いわよ、コイツ等は殺すけど」

「「ヒイイーーーっっ!」」


「ル、ルシフェラ様の処へご案内しますっ!

 だから、殺さないであげて下さい!」

 深々と頭を下げるツマツヒメ


「アンタみたいな小娘がルシフェラの処へ行ける訳無いじゃない」

「わ、私、これでもルシフェラ様のお世話係の一人です!」


「……へえ?」

 アシュタローテは、悪い笑みを浮かべる

 


 

 

 

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