第16話 討伐部隊


「サバーニャ、何をしている?」

 アガリアと立ち話をしていると、軍服をビシッと着こなした白髪の竜眼美女から声をかけられた


 (げっ、冥王軍軍監のハーディじゃない!)

「ん?ルシフェラ様にお仕えして居たアガリアか、こんな所で何をしている?」

 

「ご無沙汰しております、ハーディ様、何やら大変なご様子で……」


「うむ……貴様、何か知っておるな?」

 (ギクリ)

 冥府を監督するハーディの蛇の瞳にも見える竜眼は、真理を見透す権能を持つ

 嘘も誤魔化しも通用しない


「サバーニャ、連行して尋問しなさい」

「は?はっ!」

 サバーニャも上司であるハーディに逆らえない


 例え転位で逃げても、地獄に居る限り見付かってしまう

 冥王軍とは、冥府の亡者を取り締まる司法権を有する軍事組織だ


「先遣隊の調整は、どうなって居るか?」

「はっ!威力偵察部隊として、既に赤炎竜と黒炎竜が待機して居ります」

「転位している部隊には、二人が現地へ合流する迄待機させろ」

「はっ!」


「黒炎竜ヴォルカノ、出るぞ!」

「赤炎竜イフリース、行く!」

二人の炎竜が連れ立って飛び立つ


ハーディと部下のやり取りを聞いたアガリアは密かに思う

 (あ……、地獄終わったわ……)



 一方その頃、道の上を全速力で飛行中のアシュタローテは、後方から急接近する二つの気配に気付いていた


 一刻も早く、子供達かも知れない魔力源へ向かいたいが、迫り来る気配も間違いなく目的は同じだろう

 となれば、ここで自分が迎え討たないと言う選択肢は有り得ない


 地面に降り立ったアシュタローテは、腕組みをして二つの気配の接近を待つ


 暫くして、赤と黒の二人の炎竜がアシュタローテに追い付く


「見ろよイフリース、聞いてたより近くまで来ていやがった!」

「油断するなヴォルカノ、情報と食い違う、

 転位した先遣隊の話しでは、二人の子供だと聞いたぞ?」


「……子供だと?」


「お、喋ったぜ?ウケル~♪

 俺らの魔力を前に、ビビら無えなんざ大したモンだ!」

「一つ聞く!我等の拠点を破壊したのは、貴様の仕業か?」


「貴様達の都合など知った事では無い

 ……が、暇潰しに付き合って貰うぞ!」


 ヴォルカノと呼ばれた黒い鱗を持つドラゴンは、一瞬呆気に取られた顔をしたが、すぐに凶悪な笑みを浮かべると、アシュタローテに襲いかかってきた


 黒い爪がアシュタローテの顔面を捉えたかと思うと、虚像を消し去ったアシュタローテがヴォルカノの頭上から魔力を乗せたキックで、頭を地面に縫い付ける


 勢いの付いた硬直の瞬間を狙い、赤肌に白髪のイフリースが飛び蹴りを見舞うが、これも避けられる

 イフリースは身体を捻り尻尾に依る打撃を試みるが、ガシッ!っと掴まれ、逆に地面に叩き付けられてしまった


「……トカゲごときが私に敵うとでも思っているのか?せめて龍に進化して出直して来い」


「糞がああぁ!!」

 ガバッと跳ね起きたヴォルカノが身体のあちこちから炎を噴き出すと、火災旋風を巻き起こしアシュタローテ目掛け放つものの、アシュタローテはその炎を、軽く手を振るだけで打ち消してしまった

 イフリースは焔のブレスを吐くが、これもアシュタローテに弾かれてしまう


「退屈しのぎにも成らんな……」


「馬鹿な、我等が全く歯が立たんとは……」

「何モンだ!テメーは?」


 アシュタローテが魔力を漲らせると、ヴォルカノとイフリースは、あまりの強大な魔力に恐怖する


「貴様達には二つの選択肢を与えてやる」


「な、何を……」


「一つ目、今後永遠に私に忠誠を誓い、私の手下と成るか……」

「ふざけるな!」


「二つ目、今、この場で塵一つ残さず消え去るか……どうやら答えを聞く迄も無さそうだな

 時間の無駄だ……」

 アシュタローテが魔力を凝縮させ始めると、慌てる二人組


「ま、待て待て待て!誓う!誓います!忠誠!」


「た、短期は損気って言うだろ!なあ?」

 イフリースもヴォルカノも最初の勢いは何処へやら、簡単に手の平を返してしまった


「では、忠誠の証を刻んでやるとしよう」

「「……へ?」」

 アシュタローテは二人の頭を掴むと、それぞれの目玉を抉り抜く

「「ギャアアアーーーー!!」」

 そして、目玉を飲み込むと、暫くして吐き出し、何だか禍々しい瘴気を纏わせるソレを再び眼窩に押し込める


「クックックッ、永遠の隷属の呪いをかけた

 もし、私に逆らったり、裏切ると、貴様達の目玉が中から脳を食い尽くす」

「「ヒイッ!?」」


「さあ、すっかり道草を食ってしまったが、愛しい我が子を迎えに行くとしよう!」

 

 

 

 


 

 

 

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