第15話 地獄の沙汰は何次第?
アシュタローテとアガリアの二人は、延々と続く一本道を歩き続けて居たが、そろそろアガリアは我慢の限界だった
何しろ、とんでもない魔力のブレスで魔境の森に道を切り開くなど、前代未聞だったし、歩き出してからアシュタローテは一言も喋らない
かれこれ丸二日は歩き通しである
「そろそろお腹が空いたわね?」
「……」
「それにしても、魔物が一匹も現れ無いわね?」
「……」
アシュタローテのとんでもない魔力に怯えて、魔物も出て来れなかった
適当に魔物相手にストレス発散でも出来れば、良かったのだが、それすら無い
地獄へと紛れ込んだかも知れない子供達を探すと言う目的が無ければ、さっさと転位して帰りたいのが本音だった
アシュタローテと違い、実体を持つ悪魔のアガリアは、お腹も空けば、眠くもなるし、疲れもする
地獄に溢れる魔素を呼吸していれば、空腹感さえ覚えない堕天使とは違うのだ
地獄の入国管理監の所へ転位して、子供達が来ていないか、確認しに行きたいのだが、アシュタローテを独りきりにするのは、余りにも危険な気がした
「あのね、アーシュ……」
「地獄が、こんなにも辛いとは想像以上だわ」
「……え?」
良い加減、一休みして何か食べようと意見する積もりで口を開いたアガリアは、アシュタローテの意外な一言に驚いた
「辛い?今貴女、辛いって言った?」
「ああ、余りにも退屈で死にそうだ……もっと、こう……魔物とかウジャウジャしてるのかと期待してたのに、蟻の子一匹居ないではないか」
そう言えば、こっちへ来る時に、退屈しのぎとか言ってた様な気もする
魔物が出ないのは、初っぱなのアシュタローテの一撃のせいなのだから自業自得と言えるのだが、面と向かってそれを突っ込む勇気は無かった
と、その時、遥か後方でとんでもない魔力の気配を感じる
「!!」
「な、何!?」
「バラキエラ……いや、違うか?」
「あの子達の魔力にしては、強大過ぎるわ!」
「でも、似てる……私は戻るぞ」
アシュタローテは迷う事無く、今来た道を翔んで引き返し始めた
「あ、私はこの先に在る入国管理監に会いに行くわね!」
返事は無い
アガリアは仕方無く、一人で転位した
地獄の入国管理は、厳格にシステム化されていて、例えばアガリアが地上から転位して来た場合は、ちゃんと把握され、記録に残る様に成っている
今回の様に、次元の隙間から勝手にやって来た場合、不当侵入と見なされ処分の対象と成りかねない
不当侵入が発覚した場合、当該地域の管理監が現場への対処を決定する権限が与えられていた
「……何よコレ?」
完膚無きまでに破壊された入国管理舎を前に、アガリアは唖然とした
あの、アシュタローテが放ったブレスは、入国管理舎の建物を完全に破壊し、更に奧地へと更地の「道」が続いて居た
瓦礫の山の片隅に、簡易テントが張られ、冥王軍の軍服を着た悪魔達が忙しなく動いている
「またピンポイントで当たったものだわね……」
方向の指示をしたのはアガリアだったが、まさか当たるとは思っても居なかった
と言うより、こんな遠くまで貫く魔力のブレスが異常なのだ
「貴女、アガリアじゃない?」
呼び掛けに振り返ると、見知った悪魔が居た
地獄入国管理監のサバーニャだ
「久し振りね!風の噂で、地上で人間と結婚したとか聞いたけど、本当なの?」
「本当よ」
「サキュバスでありながら、男嫌いで通した鉄の処女を堕とした男には興味あるわね!
ね、どんな旦那様なのよ?」
「……堕天使アシュタローテを屈伏させたヒトよ」
「嘘っ!?」
「それだけじゃ無いわ、天使にドラゴンに戦乙女まで籠絡してみせた稀代の男前よ」
「凄い!そんな人間が実在するの?
……ひょっとして、勇者とか?」
「そんなチンケなモノと比べ物にならないわよ、私のご主人様は!勇者も倒したんだから!」
思わすドヤ顔で胸を張り惚気るアガリア
そこまで聞いて、「おや?」と気付いたサバーニャがアガリアに問う
「ねえ、貴女のご主人様ってもしかして……女の人?」
「そっ、そうよ!悪い?」
やっぱりそうかと、肩を落とすサバーニャ
「男嫌いの貴女が、ヤケに力説すると思ったら……とうとう女同士で結婚したのね……はあ」
「失礼ね!それより、一体どうしたの?」
と、白々しく話題を変えるアガリア
「う~ん、まあ知らない仲じゃないし、良いか?
二日前に、いきなり正体不明の敵性攻撃を受けたのよ!官舎は木っ端微塵、職員の皆の命が助かっただけでも、奇跡だわ」
「アハハ……ソウナンダ~タイヘンネ~?」
思いっ切り当事者のアガリアは、取り敢えず知らんぷりを決め込む事にした
「まあ、そんな訳で、今調査を兼ねた討伐部隊を編成中なのよ!」
これはヤバいかも知れない
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