第14話 道との遭遇


 ラムエラとバラキエラの二人が、狼の背に乗って、漸く密林の道らしき場所まで辿り着いた時には、既に夜空に星が煌めいていた


「どうやら、ここが道の端っこみたいだけど?」

「……何も無いね」

「って事は、ここが道の始まり?」


 二人の子供達は、果てしなく続く一本道を見てため息を吐く


「はあ、疲れたから道の先に行くのは明日にしない?」

「賛成、ずっと移動してお腹空いちゃった」

 実際に走ってるのは狼で、二人は背中に乗っかっていただけなのだが


 取り敢えず、夜営の準備をして焚き火を起こし、持ってきたミミズの肉を焼くラムエラ


 バラキエラは、一日中駆け通しだった狼を撫でて、労ってやった


「バラキエラ、お肉焼けたよ」

「あ、ありがとう」

「ほら、狼くんも食べな!」

 ラムエラは生肉を切り分け、狼に投げてやる


 狼は、肉が焼けていようが、生だろうが、お構い無しな様で、生肉にかぶり付いている


「……名前」

「ん?何か言った?」

「狼くんじゃ、可哀想だから、名前付けてあげようよ?」

「あー、ポチとかタマとか?」

「タマは猫の名前でしょ?もうちょっと真面目に考えようよ」

「ガウッ」

「ほら、本人もそう言ってる」

「……ガウ、はどう?」

 ヘッヘッヘッと、尻尾を振る狼

「安直だなあ、ラムエラは……まあ、シロとか付けるよりマシかな?」

「決まり!お前の名前は「ガウ」だよ、

 よろしくね、ガウ!」

「ガウッ!」

 尻尾の振りが激しくなったのは、多分喜んでいるのだろう

 どこかの公国の攻撃空母みたいな名前だけど、この世界では誰も気にしないので良しとしよう


 その夜も、ガウの毛皮にくるまれて眠りに着いた二人だった


「カサカサカサ……」


 静かな夜の森に、何かが蠢く微かな音がする


「カサカサカサ……」


 ガウの耳がピクリと動くと、低い唸り声を出す

「……ん、どうしたの?ガウ」

「え、なに?」

 二人の子供も眼を覚ます


「カサカサカサ……カサカサカサ……」


 ガウは完全に立ち上がり、臨戦態勢だ

 全身の毛が逆立って、牙を剥いて唸っている

「……ちょっーと、嫌な予感がするんだけど?」

「暗黒魔法で、灯りを打ち上げるわね」


 バラキエラは魔力を練ると、空中に光輝く魔力弾を打ち上げた

 パアアーーッと周りが昼間の様に照らし出されると、密林のそこかしこから、何万という真っ黒い巨大な蟲の群れが姿を現す


「ヒッ!!」

 硬直したバラキエラは、白眼を剥いて気絶してしまった

「ちょっと?大事な場面で気絶なんてしてる場合じゃ無いわよ!」

 ラムエラはバラキエラを抱えると、ガウの背中に飛び乗る

「ガウ!逃げるわよ!」「ガウッ!」

 ザザアアーーーーーーー!

 ガウが走り出すと、蟲の群れも一斉に追い掛け始めた

 どうやら、夜行性の蟲らしい

 体長一メートル程の真っ黒い蟲が、数万匹の群れを成して追って来る様は、まるで黒い津波の様だ

 立ち向かうにも、地獄丸で一匹づつ相手にする訳にも行かないだろう


「ちょっと!バラキエラ、起きなさいよ!」

 ガクガクと揺すって無理矢理、眼を覚まさせる

「ふえ?……嫌っ!虫嫌い!あれ、虫は?」

「アンタの後ろよ」

 バラキエラが振り返ると、道幅一杯に押し寄せる黒い蟲の群体が目に入った


 「イイイヤアアアアーーーーーーーッッ!」

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!

 昨日の倍以上の数百にも及ぶ魔力弾を乱射するが、一向に数が減らない処か、益々押し寄せる黒い波は高く成って行く

 

「ちっ、このまじゃ押しきられるわ!地獄丸!」

 ラムエラは聖剣を握りしめ、黒い蟲の波に飛び込んで行く

 

「ラムエラ!?」


 飛び下りたラムエラに無数の蟲の波が殺到する

 ザアアアーーーーーーッッ!

「ウオオオオーーーーーーーッ!!」


 ラムエラが地獄丸を一閃すると、囲んだ蟲が数十匹斬り飛ばされるが、数万にも及ぶ蟲の群体の波に飲み込まれて姿が見えなくなる


「ラムエラーーッッ!?ど、どうしよう?」

「ガウッ!」

 ガウがバラキエラを下ろすと、迷う事無く蟲の波の中へ飛び込んで行く


 ラムエラとガウが何処に居るか分からない為に、魔法を使う事も出来ない


「あーん、どうしよう?取り敢えず極楽丸!」

 蟲が怖いバラキエラがオタオタしていると、蟲の波の中からラムエラが飛んで来た

 どうやら、ガウがラムエラを放り出して助けてくれたらしい


「ラムエラ!!」

 意識の無いラムエラに近付き、抱き寄せると、バラキエラの指輪とラムエラの木刀が触れた


 途端、景色が歪む

 意識が、存在が歪む

 ペンティアムが仕組んだ、二人にも秘密の魔方陣が起動したのだ


 一瞬の後、二人が居た場所に一人の天使が立って居た

 肌は褐色、目付き鋭く、右目はラムエラと同じ青い瞳、左目はバラキエラと同じく紅い瞳が輝いている

 しかし、ラムエラでもバラキエラでも無い、何より二人よりずっと身長が高い

 顔付きも、十代後半のしっかりした顔立ちだ


 背中には、白い翼と、黒い翼が生えていた

 彼女は犬歯を見せて不敵な笑みを浮かべると、右手に握った木刀を横凪ぎに振るった

 ゴウ!と暴風が吹き荒び、目の前の蟲の群体を消し飛ばす


「……悪く無えな」


 続けてスウーーと、息を吸い込むと、凝縮した魔力をブレスとして吐き出した

 ゴオオーーーーーーーーーッッ!!


 二日前にアシュタローテが「道」を作ったのと同等か、寧ろ強い位の魔力の奔流が、反対方向へ向けて一直線に「全て」を消し飛ばした


「……フン」


 蟲が消え去った道の上に、傷付いたガウが横たわる

 ラムエラを助ける為に、蟲の群体に飛び込み、自らが犠牲となったのだ

 彼女はガウに近寄ると、蟲に喰われボロボロに傷付いたガウの身体に手を翳し、「治療」の奇跡を発現させた


 肉が削がれ、骨が見えていた手足や頭部も、見る間に復元され回復するが、流石に意識は戻らない

 と、唐突に彼女の姿はラムエラとバラキエラ二人の姿に変化し、ガウに寄り添ったまま眠り続けた


 

  

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る