第10話 地獄の裏門


「アガリア、案内を頼んだわよ」

 アシュタローテとアガリアが地獄へと立ち入ると、次元の切れ目は閉じた


 聖教会西方支部に隣接する、ミカエラ達の屋敷から来た筈なのに、辺りは鬱蒼とした森林に囲まれて居る

 見たことも無い種類の植物が生い茂り、ウネウネと足元を這う木の根や刺の生えた蔦や葉が、歩く邪魔をしそうだ


「……取り敢えず、どの方角へ向かうの?」

「あっちに向かうわ、入国管理監に話しを聞いておきたいし……」

「分かった」スウーーーー、ゴウウッッ!!

 アガリアが指し示した方角を確認すると、アシュタローテは大きく息を吸って、躊躇無く暗黒のブレスで進行方向の「全て」を吹き飛ばした


「これで歩き易くなった」

 取り敢えずの進行方向に出来上がった、一本道の更地を当然の如く歩き出すアシュタローテ


 眼をまん丸にして呆気にとられるアガリアは、ただ黙って付いて行くしか無かった



 

 一方その頃、ペンティアムに連れられたラムエラとバラキエラは、大海原の真っ只中で巨大海竜と追い駆けっこの真っ最中だった


「「嫌あああーーーーーーーっっ!!

 食べられるうーーーーっっ!!」」

 数キロは有りそうな、超巨大な口が二人を飲み込もうと、襲って来る


 二人共、必死で翔んで逃げ回ってるのだが、ペンティアムが暗黒魔法の応用で、海面から三メートルより上に翔べない様に結界を張っている為に、ずっとギリギリの所で躱し続けていた


 全長は、一体何十キロ有るのかも分からない

 

「何で、こんなにデカイのよぉ?」


「海の中では天敵も居ないしね、エサも豊富で運動する場所にも事欠かないから、そりゃデカく成るでしょう」


「て言うか、地獄へ行くんじゃ無かったの!?」


「ええ、そうよ?生身で生きたままじゃ、地獄へは入れないって言ったでしょ?」


「ちょっと待って!それじゃ、私達アイツに食べられなきゃ地獄へ行けないって事?」


「地獄への特別な裏口が、リヴァイアサンのお腹の中に在るのよ!」


「「ウッソだあぁーーーっ!?」」


 一度、海中深くに潜ったリヴァイアサンは、活きの良い餌を飲み込もうと海面高くジャンプして、三人を飲み込み、再び海中へと身を踊らせると、満足して深海深くへと潜っていった



 暫くして、バラキエラが眼を開けると、そこは巨大海竜の腹の中では無く、何処までも果ての無い荒野だった

 如何にリヴァイアサンが大きいとは言え、流石に腹の中に照り付ける太陽は無いだろう


 ふと見ると、隣ではラムエラが懸命に平泳ぎのポーズで足掻いている

 何がなんだか分からないが、可笑しくなって笑ってしまう

「プフッ、ラムエラ?泳がなくても大丈夫だよ?」


「へっ、え?あれ?どうなってんの?」


「リヴァイアサンの腹の中では無さそうだよ」

「アタシ達、生きてる?息もしてるし、足も有る!じゃあ、地獄には来れなかったのかしら?」


「ここは地獄の一丁目さ!」

「「先生!」」


 高い岩の天辺から周囲を確認したペンティアムが、二人の側へと飛び下りて来た


「言ったでしょ?地獄への「裏口」が在るって」

 巨大海竜に飲み込まれたというのに、何時もと変わらぬ優しい笑顔で、ペンティアムは言う


「じゃあ、本当にここは地獄?」

「でも、私達生きてる……?」


「だから裏口だって言ってるじゃない、

 ちょっと、二人共これを渡しておくわ」

 ペンティアムはそう言うと、二人に揃いのブレスレットを手渡す


「何これ、綺麗!」

「……凄い、不思議な魔力?」

 ラムエラは喜んで、すぐに腕に嵌めてみたが、バラキエラは手に取り、じっと観察している


「ミカエラには聖剣卍丸が有るでしょう?

 貴女達は、これが護ってくれるわ」


「えっ!じゃあ、コレ聖剣なの?」

「この不思議な感じは、もしかして「神気」?」


「ふふ、二人共大正解!

 良く聞いて?今の貴女達は、地獄から見ると、「死んでいる様に」見えて居るわ」

「「?」」


「だけど、地獄の別名は煉獄……

 本来は、地獄へ墜ちた亡者を、永遠に処する場所なのよ?」

「死んだ人はどうなるの?」

 少し怯えた表情で、ラムエラが聞く


「煮えたぎる油で釜茹でされたり、身体中を切り刻む針の山を登らされたり、夥しい虫に身体の中を食べられ続けたりするのよー!」

「ひえええ……」

「虫嫌い虫嫌い虫嫌い虫嫌い……」


 ノリノリで子供達を驚かすペンティアムの言葉に、二人共すっかり怯えてしまった


「と、言う訳だから、なるべく悪魔に見付からない様にしなきゃ駄目よ?貴女達」

「もし、見付かったら?」


「……生きたまま、さっき言った様な拷問を受ける事になるわよーー」

「ひえええーー!」

「本当に死んじゃうよぅ……」


「そっ、死にたくなかったら、戦いなさい!

 戦って勝ちなさい!それしか無い!」

「「はい、先生!」」

 ペンティアムの言ってる事が、微妙におかしい事に、素直な子供達は気付かない


「ラムエラの聖剣は「地獄丸」

 バラキエラの聖剣は「極楽丸」よ、

 名前を呼んで、魔力を流せば聖剣として再構築されるわ、やってご覧なさい?」

「地獄丸!」「極楽丸!」


 二人の呼び掛けに、ブレスレットが応える

 それぞれが煜いたかと思うと、二人の手に聖剣が顕現していた


 


 


 


 

 

 


  


 

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