第8話 地獄の釜の蓋を開ける者


「ねえ、ラムエラ!

 私ね、試して見たかった事が有るの!」


 転移魔法を会得したバラキエラはラムエラに提案する


「なに?」

「いつか、お母さんに聞いた、あの大空の更に上の景色を見てみたい!」

 

 昔、ミカエラが黄金のドラゴンに変化したクレセントの背に乗って、遥か大気圏外まで翔んだ話しを夢見て、キラキラと瞳を輝かす


「それ、良いネ!」

「でしょ?行ってみようよ!」


「……ん?何処に行くって?」

 思案に耽っていたペンティアムは、二人のテンションの変化に気付く


「「せーの、転移!!」」

「あ、おい?」

 二人の姿がペンティアムの執務室から消える



 地上から遥か百キロ


 成層圏より遥か上空に、二人は転位した


 星は丸く、広がる大海に、少しの陸地に砂漠と緑とが見えた

 山脈の頂きには雪が白く見える


 白い雲が浮かぶ星は、全体に蒼く輝いて見えた


「……きれい……」

「輝いてるね……」

「お母さん、ここまで来たんだ」

「うん、凄いね」


 二人が生まれる以前、ミカエラは黄金の龍の背に乗って、この景色を見た

 その事実が誇らしくて、二人は胸が熱くなる


 やがて、星の引力に引かれて二人は落ち始める

 徐々に速度が上がるにつれ、何だか熱くなって来た

「ねえ、これってヤバくない?」

「私、先生の書いた本で読んだ事が有る

 確か、「大気圏突入」とか言うやつ?」

「何それ?」

「このままだと、空気との摩擦抵抗で、多分二人とも燃え尽きちゃう?」

「なにそれーーーーッアチチ!?」


 既に落下速度はマッハ八を超え、一筋の流れ星となり中間圏界面を超えようとしていた


 窓から空を見ていたペンティアムは、その一条の閃光に気付く

「あのバカタレ共!」


 すぐさま事態を理解したペンティアムは自由落下中の二人の元へ転位する

「「先生!?」」

「帰るわよ!」

 二人を抱き締めて、無事に地上へと帰還したが、二人共服は既に焼失して素っ裸だ


 実体を持つとは言え、天使なだけに流石に燃え尽きはしなかったものの、衣服はそうはいかなかった


 「全く、無茶し過ぎよ貴女達?落ち始めたら、すぐに転位して戻って来なさいね」

「「ごめんなさ~い」」


「大体、どうして急に転位したいなんて思ったの?」


「ルシフェラさんに聞きたい事が有って」

「どうしても地獄へ行きたかったの」


「ルシフェラ?

 また、ろくでもない名前が出て来たわね?」

 ハァ、と一つため息を吐くと、詳しい理由を聞き出した


「つまり、アラサーに悩むお母さんに「若返りの霊薬」をプレゼントしたいから、地獄へ転位する必要が有ったと……そう言う訳ね?」

 コクコクと頷く二人


「でもね?アガリアの言うとおり、地獄は生きた者は入れないの

 堕天使の因子を受け継ぐバラキエラはともかく、天使のラムエラは入った途端に魂が消滅するわよ?もちろん、バラキエラだって破滅するかも知れないリスクが有るわ」

「消滅……」

「破滅……」

 二人共、顔が真っ青になっている


 (でも変ね?ルシフェラならワザワザ薬なんて使わなくても……んん?もしかして、そう言う事?)

 

「大体、貴女達、地獄が何処に在るか知ってるの?転位先をイメージ出来ないと転位出来ないわよ?」

 ブンブンと首を横に振る二人


「それに、地獄は悪魔が支配する魔の領域よ、

 何の準備も無く行っても、只じゃ済まないわ」

「どうしたら良いの?」

「先生、助けて!」


「んーふっふ、先生に任せなさい?」

 ペンティアムは久々の悪巧みに、思わず悪い笑みを浮かべた 


 

 



 

 

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