第7話 地獄への片道切符


「え、地獄への行き方?

 そんな事知ってどうするの?」


 ラムエラとバラキエラの二人は、厨房へやってくると、こっそりとアガリアに聞いてみた


「ちょ~っと、ルシフェラさんに聞きたい事が有って……」

 ラムエラが可愛らしく上目遣いでアガリアを窺う


「さては、さっきの話しを聞いてたわね?」

 聞くも何も、ミカエラが大声で騒ぎたてるから、嫌でも耳に入る


 アガリアは一つため息を吐くと

「あのね?地獄はそうホイホイと行ける場所でも無いし、行っちゃ駄目なトコロなのよ?」


「でも、ルシフェラさんやアギー母さんは出入り出来るでしょ?」


「そりゃ、私もルシフェラ様も悪魔ですからね?行き来出来て、当然です」


「どうやって?」


(まあ、この子達にそれを教えても、出来る訳が無いし、問題無いわよね?)

「あのね?「転移」って分かる?」


「大司教がたまにヤるヤツ」

「アギー母さんが、買い物のお使いで楽してるってデュオ母さんが愚痴ってた」


「地獄へ行くには、極悪非道を重ねて墜とされるか、転移するしか無いのよ?

 もう一つ、これが一番大事なんだけど、

 生きてる者は入れないの」


「どうして?」


「地獄だからよ」


「変なの~?」


「貴女達も、天使とは言え肉体を持って生きてるんだから、入れないのよ?分かったら諦めなさい」

「「はあ~い」」


 ふたり仲良く返事をして厨房から出て行く


 (若返りの霊薬を手に入れて、ミカエラにプレゼントでもしたいのかしら?可愛いわね……

 

 そもそもルシフェラ様も、薬なんか使わなくても、指先ひとつでミカエラ様を若返らせられるのに、どうして霊薬の話しなんて言って、からかったのかしら?)


 そんなアガリアの疑問を他所に、ラムエラとバラキエラの二人は、大司教ペンティアムの元を訪れる


「あら、今日から夏休みだったわよね?何か約束してたかしら、どうしたの?」

「先生に会いたくて」

「用事が無いと来ちゃ駄目?」


「もちろん、歓迎するわよ?」

 あざとい二人の企みに気付かず、ペンティアムは問われるままに転移魔法の奥義を説明し始める


「……そう、転移について知りたいのね?

 貴女達なら理解出来るかもしれないわね」


 ペンティアムはそう言うと、煙草を一本取り出してマッチも使わず火を着けてみせる


「さあ、どうやって火を着けたか分かる?」


「煙草の着火温度を超える運動を与えた?」

「何処かから火を持ってきた!」


「どちらも正解と言いたいけど、ラムエラの方が簡単ね」

 外れても拗ねない処がバラキエラの良さだ

 彼女の好奇心は挫折を上回る


「わざわざ火をおこさなくても、既に在る火を手元に持って来る方が楽よね?」

「何処かから火を運んだ……違う、入れ替えた?」

「まあ、大正解よ、バラキエラ!」


「いつでも自在に入れ替える為には……時間軸と空間軸の正確な把握が肝心……でも、仮に亜空間が実在すると仮定した場合、それで両者を直接繋ぐ事に依って問題点をクリア出来るかも……?」

 バラキエラは一生懸命に仮説を組み立てて正解を導き出そうとする


「亜空間を発生させて、アッチとコッチを入れ替えるの?」

 ラムエラが空のコップに水差しの中の水を転移させて見せた

「それよ!無ければ作っちゃえば良いんだ!」

 バラキエラはコップの水を水差しに戻して見せる

「「出来た!」」


「全く、貴女達には本当に驚かされるわね、

 お母さんには何度説明しても無駄だったのに」


 ラムエラは難しい理屈をすっ飛ばして、あっさり結論を実践して見せ、バラキエラもまた、姉の言葉から理論を完成させた

 二人ともタイプこそ違うが、間違いなく天才である


「あーーー、ミカエラ母さんには無理かな?」

「だよね、亜空間とか理解出来ないだろうし」


 (でもね?貴女達のお母さんは、私が思い付きもしない事を平気でやっちゃう凄い子だったのよ?)

 九年前の事件を思い出して、ペンティアムは窓の外の空に浮かぶ二つの月を見上げて微笑む


 

 

 


 

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