第3話 真剣勝負


 ラムエラとバラキエラの二人は、お昼ご飯を食べ終わると、早々に大聖堂の裏庭へやって来た


 ここは、王城と大聖堂に挟まれた、騎士団の練兵場にも成っていた

 その、騎士団の武術指南が、二人の母親でもある聖女ミカエラである


「おっ、もうメシ食い終わったのか?

 早飯、大食いも武芸の内だからね、感心感心!」

「いや、違うだろ?

 お前達、ちゃんとデュアルコアにお昼ご飯のお礼を言ったんだろうな?」


 数百名の騎士団を足元に這いつくばらせながら、とんでも無い事を平然と言いのけるのが、二人の母親の一人、聖女ミカエラ


 口調は荒いが、それを嗜めたのが、バラキエラの産みの親、元魔王の堕天使アシュタローテである


「ヨシ!子供達が来たから、騎士団はメシ食いに行って良いわよ!解散!」


 甲冑を身に纏った、屈強な男達はフラフラと王城へと去って行く


 余程、辛い訓練をされたのだろうか?


「何言ってるのよ?

 持久走に基礎鍛練のあと、少し打ち込み稽古しただけよ?男なんて本当に情けないったらありゃしないわね」


 ミカエラは平然と言ってのけるが、聖王国を裏切った勇者の謀略を討ち果たし、復活しかけた魔王をも手玉に取ったのが、二人の母親である


「まったく、なんの為にキン○マ付けてるのかしらね?あんな情けない遺伝子残したら女神様への冒涜だわ!」


「子供達の前で、そんなはしたねえ事言ってんじゃねえよ?

 オウ!お前等、五分後に全員集合な?

 子供達との模擬戦、見学してけよ!

 遅れた奴は、腕立て五千回だから!」


 ミカエラも相当だが、アシュタローテも大概だった

 五分で昼食を食べ終え、再び集合しなければならない

 騎士団の面々は、フラフラと歩くのを止め、王城へとダッシュし始めた


「やりゃ出来るじゃねえか、

 最初からシャキシャキしろってんだ」


 ヤンキー聖女とヤンキー魔王の伝説は、二人も寝物語として夢に見る程聞かされていた

 実際のトコロ、当事者が語る子守唄は、余りにも生々しく、殺伐としていたのだが


「ミカエラ母さん、今日こそは一本取る積もりだから、覚悟して!」


「あら、元気な子は大好きよ?お母さん♡」


 ラムエラの挑発に嬉々とするミカエラ


「私も、何時までもヤられっ放しじゃ無いから」


「おー、言うじゃ無えかバラキエラ?

 けどな、そう言う事はお母さんに勝ってから言いな!」


 バラキエラも負けじと、アシュタローテに対し闘志を剥き出しにする


 二人の母親は、そんな健気な子供達の成長が嬉しくて堪らなかったが、それと、今の子供達に必要な鍛練とは別だった


 練兵場の中央付近に位置取ったミカエラは、相対する娘、ラムエラに言う


「ラムエラ、今日から真剣で相手しよう!」

「えっ?」


「何よ、怖じ気付いたの?

 アンタの覚悟っての、その程度だったんだ?」


 僅か八歳の子供に向かって、真剣勝負を言い渡したミカエラは、騎士団の訓練用に数打ちされた鉄の剣を投げて寄越す


 放物線を描いて、地面にドスッと突き刺さったそれを手にしたラムエラは、予想外の重さと冷たさに緊張したが、母親からの挑発に乗らない理由には為らなかった


 何時もなら、訓練用の木刀だったが、今日からは真剣勝負!

 寧ろ、燃え上がる闘志に身体が震えるほどだ


「身体が勝手に震えるだろ?

 それを武者震いって言うんだ、恥ずかしがる事じゃ無え、寧ろ喜べ?アンタの内なる闘志が、そうさせてんだ」


 我が子の緊張を解きほぐそうと、声をかけるミカエラだが、ラムエラには届いていない


 ミカエラはニカッと笑う


「私がアンタの歳には、もう街の外に出て魔物と戦ってたからね

 命のやり取りするのに、早すぎるなんて事ぁ無いわよ」


 


 


 


 

 

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