第2話 親の心子知らず
「おっ昼~おっ昼~美味しいご飯~♪」
「なに?その変な歌
あと、行儀悪いからフォークとナイフでテーブルを叩かないで?」
昼食が出るのを待ちきれないラムエラは、テーブルを叩いて音頭をとる
「わたしって、歌うの上手いでしょ?
いつか、聖歌隊をバックコーラスにステージに上がりたいな」
「ラムエラも天使なんだから、せめて女神様を祝福する歌を、歌いなさいよ」
「美味しいお昼ご飯を食べられる事を、女神様に感謝しますって歌じゃない」
「……いつか天罰が下っても知らないわよ」
「お待たせ~、そんなにお昼ご飯が待ち遠しいの?嬉しいわ」
食事を乗せたキャリーを押して、デュアルコアが現れる
「今日のお昼は、サーモンと青菜のクリームソース煮と、新鮮なトマトと山羊のチーズのカプレーゼよ」
向かい合わせに座る二人の子供達の前に、美味しそうな料理が並べられると、待ちきれなかったラムエラがすぐに食べようとする
「駄目よ、食事前のお祈りは?」
デュアルコアがラムエラの手を止め、嗜める
「はあい、ご免なさいデュオ母さん」
素直に言うことを聞く可愛気はある
デュアルコアも思わずにっこりと微笑む
二人ともに、女神様へ食前の祈りを捧げる聖句を唱え、聖印をきる
デュアルコアは二人を産んだ訳では無いが、ミカエラは自分の妻六人全員を「お母さん」と呼びなさい、としつけた
聖女ミカエラには六人の妻が居る
守護天使のミカエル
ドラゴンのクレセント
悪魔メイドのアガリア
シスターのデュアルコア
戦乙女のサリエラ
堕天使アシュタローテ
女同士であるが為に、生物としての実体を持つ四人に子は出来なかったが、魔力だけの存在であるミカエルとアシュタローテとの間に産まれたのが、この二人だった
六人共が、平等に愛情を注げる様にと、ペンティアムが二人の赤子に肉体を与え、この九年間、人間と同じように育ち大きくなってきた
「ん~ん、美味しい~♪デュオ母さんの料理はいつも美味しいから好き~♡」
「……人参が入ってるぅ」
クリームソースの中に、嫌いな人参を見付けたバラキエラが、皿の端に人参を避けている
「駄目よ?バラキエラ、ちゃんと人参も食べないと大きくなれないわよ?」
「……」
「お返事は?」
「はあい」
好き嫌いを無くさせるのもデュアルコアの役目だ
と言うより、デュアルコアと悪魔メイドのアガリア以外に家事が出来る者は誰も居なかった
アガリアにしても、元々が悪魔王ルシフェラに支えるメイドだった為に、料理のレパートリーが少しばかり常識から外れていた
クレセント、サリエラ、アシュタローテは元々、常識の範囲外で生きて来た上に、それを改める気は無さそうだった
主人のミカエラも、幼い頃から修行と殺戮に明け暮れる殺伐とした人生を送って来た為に、家事やら子育てには当てにならないのが実情だ
とはいえ、長年ミカエラに支えて来たデュアルコアは、十九歳に成った今の生活が、楽しくて仕方無かった
何しろ、魔王を封印し続ける必要が無くなった為に、巡業聖女として地方を渡り歩いて留守がちだったミカエラが、常に側に居てくれるのだ
愛する人と一緒に暮らせる毎日が、こんなにも幸せである事を、女神様に感謝しつつ、食事を終えた二人に午後の予定を確認する
「大司教様の授業は終わったんでしょ?
お昼からは、二人ともどうするの?」
「わたし、座学嫌~い
ずっと机に向かって、難しい理屈ばかり聞かされるの嫌だ!」
ラムエラはジッとして居られない性格だ
「ん……、午後はミカエラ母さんにアーシュ母さんの二人と戦闘訓練」
「まあ、怪我しない様に気を付けるのよ?」
「大丈夫、怪我しても、ミカエラ母さんが直ぐに治してくれる」
「そうそう、死んでもウリエラおばさんが蘇生してくれるしね!」
「あ、馬鹿……」
「死んでも?ってどういう事!?
ちょっと、貴女達、危ない事はしてないわよね!?」
「ご馳走さま!行って来ま~す!」
「行って来ます」
二人はデュアルコアの問いに答える事も無く、外へと飛び出して行った
「もう……
まぁ、あの二人が付いてるなら心配無いか……」
言っても無駄な人の相手を十数年経験してきたデュアルコアは、小さくため息を吐いた
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