ミリーの大冒険

@ginnoji

第1話 伝説を継ぐもの達

この物語の世界では、宇宙は神が創り、天文学どころか物理学さえ認知されていません

作中の屁理屈は適当に流してくださいね

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ーーーと言うわけで、自然界にある四つの力のうちの「強い相互作用」の基礎理論は量子色力学だけど、これはその低エネルギー有効理論と位置付ける事が出来て、二体核力だけでなく、多体核力をも整合して定義できる長所を持つわね」


 涼しい教室の中で、大賢者ペンティアムの講義は続く


「具体的には、交換するパイ中間子の数で三体核力を分類し、それぞれを三つの核子のスピン(核子自身を回転軸にした自転に似た運動)および軌道運動(核子自身以外の特定の回転軸を中心にした回転運動)の組み合わせによってさらに分解、三体核力の各要素のうち、どれが殻構造発達を引き起こしているのかを理論的に数式にして表しなさい?」


 話しを、黙って聴いていた受講生、バラキエラは、黒板の前まで進み出ると、チョークを片手に難解な数式を表し始める


 カッカッカッカカッカ……


「……ふむ」

「出来たわ」

「正解、席に戻って良いわよ」


 この八歳の天才少女は、一度の説明で、原子核の多重物理的レイヤー構造を完全に理解出来ていた

 恐らく、脳の並列励起を発動して、数百台ものスーパーコンピューター並みの演算処理能力を発揮出来ている


 (まさか私以外に、これを理解出来る存在が現れるとはね……長生きはするモノだわ)


「せんせ~え」


 すると、興味無さそうに机に突っ伏して聴いていた、もうひとりの受講生が手を上げる


「何かしら?ラムエラ」


「それって、恒星、惑星、衛星間の周期運動と同じ感じ?」


「そうね……物理的な質量差を無視すれば、同義と捉える事も可能よ?

 それじゃあ、少し視点を変えて、私達が存在する、この宇宙の定義について考えてみましょう」


 うげっ、やぶ蛇だったとあからさまに、しかめっ面で机に突っ伏した


 こちらの少女も、バラキエラと同じ八歳ながら、大宇宙の真理を俯瞰的に捉えられる直感を備える天才児だ

 難しい理屈は理解出来なくとも、途中経過を省略して、何故か正解を導き出す


「ーーーと、言うふうに、この宇宙に私達人類が存在するのは、その様に宇宙が綿密な計算に依って創られたからよ

 これを、宇宙物理学の人間理論と呼びましょう

 もしも、無限に拡がる宇宙の中で、偶然に偶然が重なった結果、人類が発生する確率は10の10の123乗分の1でしか無いわね」


「……でもゼロじゃ無い」とバラキエラ


「そうね、ゼロでは無いわね?」

 (私の苦労を無に帰す様な事、言わないでよ)


 創造神が世界を創った時に、多次元平行宇宙を三次元に固定する事で炭素原子を奇跡的に安定させ、知的生命体が発生出来る様に、緻密に調整したのは、他ならぬペンティアムだった


「結局、神様が私達を創ってくれたんでしょ?

 だから神様に感謝しましょうってのが宗教」

 と、ラムエラが締める


 この子は、本当に頭が回る

 回り過ぎて、教える側としては非常にやり難いんだけど


 大聖堂の鐘楼が中天(お昼)を告げる鐘を鳴らす


「やったあ!お昼ご飯の時間だぁ!バラキエラ、行こっ?」

「うん、先生、失礼します」


 ラムエラはわき目も振らず教室を飛び出し、バラキエラは丁寧に一礼して退室する


「まったく、末恐ろしいやら、頼もしいやら……」

 誰も居なくなった教室でペンティアムは独りごちる


 二人はペンティアムの愛弟子、聖女ミカエラの娘達だ


 ミカエラの守護天使のミカエルとの間に産まれたのが、ラムエラ

 銀色の髪と、水色の瞳を受け継いだ活発な娘だ


 ミカエラと堕天使アシュタローテの間に産まれたのが、バラキエラ

 黒い髪と、紅い瞳、強い魔力を受け継いだ利発な娘だった


 女性にも関わらず、一度に六人もの花嫁と結婚したミカエラは、肉体を持たぬ、魔力のみの存在であるミカエルとアシュタローテとの間に子を成した


 まさに愛(精神体)の結晶であるが、両名とも実体を持たぬ魔力だけの存在だった


 ペンティアムは、そんな二人に、炭素核を媒体として肉体を構成し、サリエラ同様の、実体を持つ生きた天使としたのである


 教会の玄関先に、産まれてすぐ棄てられていた赤子だったミカエラを慈しみ育てたのは、他ならぬペンティアムだ

 言わば、二人は孫同然

 眼に入れても痛くないほど、可愛くて仕方無かった


 ふと、ペンティアムは懐から手鏡を出して顔を見る


「……最近、笑顔が多いせいか、小皺が増えたかしら?嫌ねぇ」


 


 

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