第19話
咲良が向かった場所は、恐らく警察署。
彼女は自分のやったことを償おうとしているのだ。
全く――馬鹿らしい。思わず笑いがこみ上げてくる。
「はっ、俺がお前に自首して欲しいなんて言ったかよ」
ただ、アイツが深読みしただけ。やっぱりアイツは頭が悪い。
青〇勘違いとか、最後にあんな大きい弱みを見せつけられたら、利用するしかないだろう。馬鹿が。
アイツが自首をすれば、西行家が動く。西行家が動けば、咲良や、咲良と行動を共にしていた透夜、そして俺が処分の対象に選ばれる筈。
でも、俺には有栖という後ろ盾がいるから、西行家は手を出せない。
よって、咲良と透夜は仲良くゲームセット。咲良はそこまで考えが回っていなかったようだけれど……いや、そもそも透夜は処分対象には選ばれないのか。
アイツは西行家の悪行を全く知らないようだし、闇の部分とは離れて生きているってことなのだろう。
……まぁ、いいか。
透夜は無害だし、学校での俺の話し相手としては有能だろうし。
にしても、この章のMVPはやっぱり透夜だな。アイツのお陰で、咲良は俺に接触してきたし、楽に咲良を処分出来た。それに、友達として仲良くするにはもってこいの人間だ。
……悪人ぶるのはここで終わりにするか。
「はぁ……」
さっきの有栖との電話は、有栖を俺の後ろ盾にするために必要なことだった。アイツの場合、葵を殺した犯人が父親だと伝えればきちんと俺の狙いも把握してくれるだろう。
「馬鹿みたいだ、本当に」
咲良は、友達だ。
それなのに、俺は咲良を消そうとしている。
俺の過去を知る人間は、お互いの秘密を共有している有栖以外にいてはならない。
じゃないと、俺はエマときちんと向き合えない。
妹としてではなく、幼馴染の、小学五年生の女の子として、エマと向き合うことが出来ない。
もし、エマに俺の過去がバレたら。
想像するだけでも恐ろしい。
だから――俺は咲良を殺す。
俺の、最後の殺人として。
「……帰るか」
今からやることなんて、もうない。
今更出来ることなんて、もうないのだ。
■■■
「一幡くん」
放課後の教室。ぐっすりと眠っていた俺を起こしたのは、クラスメイトの西行咲良だった。
「……なんだよ」
俺は冷たい声で咲良を拒絶する。咲良が何を言いたいかなんて、容易に想像がつく。
「私とデートしようよ。最近、新しく出来たスイーツ店があってね。あそこのパフェが絶品だって話」
「興味ない」
だって、どうせ吐くんだから。
「……ケーキじゃなくても、何か食べに行こうよ」
俺の身体は今、やせ細っている。胃が食事を拒否してしまうのだ。
どうせなら、このまま衰弱して死んでしまえばいい。俺はそう思っていた。
「行かない。これ以上俺に関わるな」
強い口調だが、その声は自分でも分かるほどに弱く、痛々しい。
「……辛いの?」
「別に」
全然辛くない――そう、自分に言い聞かせた。そうじゃないと、俺は絶望して、自らの手で命を絶ってしまいそうだから。
死ぬなら、衰弱か……まぁ、そんな所だろう。自殺じゃなければ何でもいい。だって、葵は誰かに殺されたんだから。
死ぬ時は、その死を誰かのせいにしたい。
葵と一緒が良い。お揃いが良い。
「ねぇ」
咲良は一息置いてから、にやりと醜悪な笑みを浮かべた。
「私に救われたい?」
……咲良は確かに俺の事を救えるのだろう。俺が追い詰めて、粉々に破壊したあの女達と同じように。
でも、残念ながら。
「お前の救いなんて受けない」
やっぱり拒絶した。
コイツは葵を殺した犯人なんだ、と。違和感を感じてしまわないように、そう思い込んでいたから。
「……そっか。でも、それならせめて、何か食べて欲しいな。友達が衰弱死するなんて、とっても後味が悪いし」
良く分からない。恐らく、俺がこのまま死ねば咲良は自分が一幡コウを見殺しにしたんだと、自分を責めてしまうのだろう。それはとても嬉しい事だ。
にしても、友達か。
「いつの間に俺とお前は友達になったんだ」
「うーん、そうだなぁ」
強いて言えば、と続けて。
「初めて会った時、かな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます