第18話

「葵を殺した犯人は、俺の父親だよな?」


 私は頷いた。


「……なんだ。大丈夫だったんだ」


「お前が余計なお世話だったんだろう」


「そうかもね」


 私は、葵ちゃんが殺された場に居合わせた、たった一人の人間だ。

 だからこそコウくんは私を呼んだ。ここで、自分の出した答えが正しいか、答え合わせをするために。


「なんで私だって分かったの?」


「お前があからさまに俺の記憶を気にしていたからだ」


「……そう?」


 心当たりがないわけじゃないが、まさか見破られているのか。


「俺とお前はコンビニで久しぶりに再会したよな。あの時、俺は西行透夜と会っていたんだ」


「うん、知って……あっ」


「気付いたか。お前は俺がお前の妹である西行透夜を見て、昔の記憶を思い出してしまうんじゃないか、と思ったんだろ。だから確認しに来た」


 完全に図星だ。

 でも、反論は出来る。


「私と会うことでキミの記憶が蘇ったらどうするの?」


「葵が殺されてから、卒業式までまだ時間があったし、その間に俺とお前は友達になったんだから、大丈夫だとお前は踏んだんだろ」


 大丈夫じゃなかったけどね。


「じゃあなんで透夜を警戒する必要があるの?」


「苗字だろ。お前は透夜が自分の苗字を漏らさないかどうか心配だった」


 ……そこまでバレちゃうか。

 私は驚きながらも、それでもどこか納得していた。

 コウくんは、結構凄い人なんだって、一番分かってるのは私だから。


「苗字がバレちゃダメな理由は?」


「俺の父が殺された理由が、西行家に関わることだったんだろ。そして昔の俺はそこまで突き止めた」


 コウくんは少し笑って、ネタバラシを続けていく。


「でも、あの頃の俺は人なんて信用していなかった。だから、俺はお前が『一幡コウは信用していた父に大事な妹を殺された』という事実を隠そうとしていたことに気付かず、お前を犯人だと思った」


 じゃあ、今は誰かを信用してるの? と訊いてみたいところだ。


「別に俺は父を信用なんてしていなかったけどな」


「それは私のミスだね。廃人状態の父を家に置いておくなんて、相当大事なのかと思っちゃった」


「父さんを大事にしていたのは葵の方だからな」


 大事な父親に殺された気持ちは、どうだったんだろう。

 もしかしたら、幸せだったのかもしれないけれど。


「父は廃人のフリをしていた。でも、裏では西行家と繋がっていたんだ」


 その理由は、分からないけれど。

 でも、恐らく。


「死〇がわりと人気らしいな、ああいうとこって」


「気持ち悪いよね。それを幼い頃からずっと見せ続けられて、本当にサイアク」


 それが日常だとしても、当たり前の事だとしても、それでも、私はそういうのが嫌いだった。だから、透夜のことは全力で守った。幸運なことに、私は成長が速くて、透夜は遅かった。


「閑話休題。まぁ、今のが俺がお前を犯人だと断定した、薄い根拠の内の一つだ」


 どうせ他にもあるんだろうけど。自分で探すのも一興というものだ。


「お前が俺の商品を買った時、商品達はお前のことを神様のように崇めていたぞ」


「……そっか。それはちょっと嫌だな」


 そんな話をここで出すってことは、コウくんは……。


「……」


 私に自首して欲しがってるんだ。

 やっぱり、キミはもう少し自分を信じた方が良いよ。

 キミが言うなら、私はいくらでも罪を償ってあげるのに。


「結局、あの商品達はお前が処理したんだろ、一人で」


「うん。だって、可哀想じゃん」


 あんな変態達に汚されて、これからを生きていくなんて、あまりにも辛いことでしょ。


「だから、殺してあげたの」


 苦しめずに、一瞬で。


「……変なところで優しいよな、お前は」


 これは善意の押し付けなのかもしれないし、悪い事なのかもしれない。

 でも、これが私の正義。

 誰にも否定できない、私の純粋な正義なのだ。


「……弟をお願い。付き合うとかそういうのはやめてね。私BL嫌いだから」


 私はコウくんに背を向けて、出口へと歩く。


「奇遇だな、俺もだ」


 ……もしかしたら、親友になれたかもしれない彼を置いて、私は倉庫を出た。

 そしてその足で、警察署に向かった。

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