第16話

 電話が切れた。

 さて、どうしよう。

 さっきいきなりコウくんから告られた。言い逃げされた。何やらおかしなことになっているなと思い、双子の弟である透夜を帰らせて私はサイゼリヤで待機していた。

 そしてしばらくしてから電話が来た。コウくんからだった。

 そこでコウくんは、私をあるとんでもないものに誘った。

 そう、青〇だ。


 ■■■


「そんな勘違いをしていたのか……?」


「……うん」


 集合場所に着くと、ショットガンを持ちながら大量のゴムを辺りに散乱させている咲良が待っていたので事情聴取。どうやら、俺と咲良はここで青〇することになっていたらしい。青春じゃないぞ。


「しかも、俺はお前に告ってすらいないからな」


「だって、だって。付き合ってくれとだけ言われたら、そう勘違いするのも無理はないでしょ! 紛らわしいじゃん! どうすればコウくんが傷付かないように断れるかなぁとか考えちゃったじゃん!」


「はぁ」


 まぁ、誤解は解けたので良いとしよう。それよりも、どうしても確認しなければならないことがあるのだ。

 俺は訊いた。


「咲良。お前と俺の関係は、一体何なんだ」


 咲良は顔を歪ませた。


「……そういうことね」


 どうやら、咲良には分かったらしい。俺が何に気付いたのか。何を思い出そうとしているのかを。


「私とコウくんの関係は、友達だよ。それ以上も以下も無い、友達。親友でも恋人でもないけれど、ただの他人なんかじゃ絶対ない」


「友達なんて、所詮他人だろ」


「そうだね。でも、じゃないでしょ」


 それはそうだ。

 仲の良い他人――それが友達の正体。

 俺の考える、友達の定義。


「それがどうしたの」


「俺と咲良は友達。じゃあ、それはいつからだ?」


 そこまで言うと、咲良は少し俯いた。


「……キミが運営していた、ウリの……」


「友達になったタイミングだ。仲良くなったタイミングはある筈だ」


 それとも、俺と咲良が最初から仲良しこよししていたっていうのか?

 そんなのあり得ない。だって、初めはお互いがお互いのことを信用していなかったし、お互いのことを少し嫌っていた筈だ。


「……覚えてないよ」


「覚えてなくても分かるさ」


 俺には分かる。覚えていなくても、分かる。

 何故、どこで、どうやって。

 そんなの、一番最初から伏線は貼ってあっただろう。


「葵が死んでから――だろ」


 咲良の身体がびくりと一瞬だけ震えた。

 笑顔を保つのが難しくなってきたのか、いつものニコニコ顔は崩れている。


「葵ちゃん……キミの妹だよね。お気の毒に。でも、それと私に何の関係があるの? 他人の家族事情に興味なんて無いんだけど」


「……しらばっくれても無駄だ」


 俺は咲良から奪ったショットガンの銃口を咲良に向ける。咲良は一瞬真顔になり、再度体を震わせたが、すぐにニコニコ顔を取り戻して平常心を気取っている。


「私を殺すつもりなんだ。別にいいけど、透夜はどうするの」


「透夜とは距離を置く。有栖を使って脅すからマッポにしょっぴかれる心配はないし、捜一にはツテがある」


 有栖のツテだが。


「キミが如月有栖を使える立場の人間とは思えないけど」


「エマを人質にするから何の問題もない。良いからさっさと本当の事を言え」


 そう睨むと、咲良は笑顔を崩してこちらを見る。そして舌打ちをしてから口を開いた。


「そう。私があなたの妹と父を殺した。葵ちゃんと……なんだっけ」


 そして次は邪悪な笑みを浮かべた。いつもの笑みと違う、悪い笑顔。

 交じりっけない、純粋な悪のような顔をした咲良は、罪悪感なんて感じさせないほどおちゃらけたみたいにそう言い切った。


「……」


「あはは、バカみたい。どうせバレるなら、最初っから隠す必要なかったじゃん。あ、でも透夜を脅すのはやめてほしいな。私との関係を隠してたのは私の指示だし、それに透夜はコウくんのことを結構気になってるって言うか……だからさ、お願いだからこれからも仲良くしてあげて――」


「嘘吐き」


 俺は引き金を引いた。

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