第12話
エマは妹ではないし、妹には似ていない。
全くの別人。実はそこまで関わりもないし、年齢の他に何か共通点があるわけでもない。
それでも、俺はエマに葵の影を見ていた。
告白を受けたとき、その恋はどうせすぐに冷めるだろうと思っていた。一週間が限度だろうと思っていた。好意に気付いてはいたが、それは気の迷いだと思っていた。
でも、間違いだった。
小学生が恋愛だなんて、すぐに飽きる筈なのに。
気付けば、俺はその好意を拒絶していた。
■■■
何故だか、体がとても重い。
目を開けると、俺の上にエマが乗っていた。
「……おはよう」
「コウちゃん。朝ごはん作ったから」
俺の腹に腰を下ろしたエマは、少しぎこちなくそう言った。
……結構キツい。寝起きはあまり力が出ないし、エマが小学生だとはいえ、もう高学年だ。少なくとも30kgぐらいはあるであろうエマが寝起きの俺の腹に体重を全部かけているのだ。
重い――というわけではないが、普通に苦しい。
「……のけてくれ」
そう言うと、エマは素直に俺の上から下りて、そのまま部屋を出ていった。
……死ぬかと思った。
少しだけ休憩してから、着替えを終えてリビングへ向かう。エマはまだ自分の食事に手を付けていなかった。
「まだ食べてなかったのか」
「一緒の家にいるんだから、普通は一緒に食べるでしょ」
……まぁ、そうか。
だが、コイツの両親は基本ずっと多忙なので、家族全員で食事する経験があるとは思えないのだが。一般論の話をしているのか。
「そうだな。いただきます」
「いただきます」
今日のご飯は昨日有栖が作ってくれたハンバーグの残りと、今日新しく炊いたご飯と、ネギがたっぷり入った味噌汁の計三つ。朝ごはんにしては結構多いんじゃないか。知らないが。
「……」
俺達は、ご飯中に会話をしない。俺もエマも飯を食う邪魔をされるのは嫌いだからだ。
ちなみに、有栖はエマと同じ家で育ったにも関わらず何故かよく喋る。口に物が入っていない時々に話すので、タイミングを合わせるのにかなり苦労する。エマには同情する。
しばらくして全て完食すると、全く同じタイミングでエマも完食したらしく、俺よりも早いタイミングで「ごちそうさまでした」と言った。
「ごちそうさまでした」
慌てる必要は一切ないのだけれど、俺は慌ててエマに続く。
食器を洗うのは俺の役目なので、俺は自分とエマの食器をそれぞれ片手に持ってキッチンへと向かう。落とすのが怖い。
「……綺麗に食うなぁ」
俺の食器にはご飯粒がかなり残っているが、エマの食器には全くと言っていいほどご飯粒がついていない。いや、それが普通なのだけれど、それでも俺は何故か感心してしまう。いつものことだ。
皿を全て洗い終えて、あとは適当に食洗器へ入れておく。実は使い方も原理もよく分かっていないので、適当にノリで操作して上手くいったら成功、いかなかったら失敗としている。エマにバレたら怒られるだろうし、有栖にバレたら殺されるだろう。
「よし、終わった」
食器洗いが終わったので、これからは自由だ。
自由とはいっても、だからといって何か予定があるわけではないのだが……久しぶりに誰か誘ってみるか。
折角着替えたんだし、と思いメールをタップする。連絡先を確認すると、その数はたったの数人だった。
「……」
俺はその中でも四人しか居ない友達の内の一人、西行透夜に連絡をすることにした。
理由は特にない。強いて言えば、咲良とすることなんて何もないし、炉斗は今忙しいらしいし、藤村とは用も無しに出歩くような仲ではないからだ。ここらへんは新キャラじゃなくてただのモブなので覚えなくても良いからな。
俺は西行のアカウントをタップし、トークルームから電話をかける。
ぷるるる、という発信音が聞こえる。そして二秒ぐらいで繋がった。
『もしもし。西行です』
「もしもし。えーと、一幡だ。今日は暇か?」
『一幡くんか。今日? 予定は特にないけど……』
「良かったら今日遊ばないか? 久しぶりにカラオケに行きたくて、誰か誘おうと思ってたんだ」
『カラオケ? 良いね。他に誰か誘ってるの?』
「いや、西行だけだ。他に誘う奴もいないしな」
『そっか……。ボクは勿論大丈夫だよ。いつ行くの?』
「今が九時だから……まぁ、十二時ぐらいかな。カラオケの前に飯も食いたいし」
『ご飯かぁ。何食べるの? 現地で決める?』
「現地で決めようか。なるべくカラオケの近くが良いしな。あそこは結構店が多かった筈だ」
『ならそれで決まりだね。十二時でどこ集合?』
「うーん……駅近くのフ〇ミマで良いか?」
『分かったよ。じゃあ、十二時に駅近のファミマで良いね?』
「そうだな。じゃ、また後で」
『うん、またね!』
カチっという音とともに電話が切れる。
いきなりの誘いだったので、来てくれるかどうか不安だった。良かったぁ。
「今日も出かけるの?」
声が聞こえて、後ろを振り向く。エマはドアの隙間から顔を覗かせていた。
その目は、どこか寂しそうな気がした。
「あぁ」
「ふうん」
エマは興味なさげにそう返事してドアを閉めた。
……あれは気のせいか。
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