第2話

 最近の小学生は恐ろしい。それは現在ひとつ屋根の下で暮らしている俺の幼馴染、如月エマを見れば分かることだ。

 まさか、小学五年生が『既成事実』なんて言葉を発するなんて、思ってもみなかった。予想できるはずがないし、予想できる人間はただの変態狂人だ。

 しかし、ここで疑問が発生する。

 果たして、本当にエマは『きせいじじつ』という言葉の意味を知っているのだろうか。もちろん、本来の意味としてではなく。

 疑問に思った俺は訊いてみることにした。


「エマ、お前は本当に既成事実って言葉の意味を分かって言ってるのか?」


「舐めないで頂戴。わたしは博識よ」


 既に小学生らしからぬ言葉が出てきたが。

 しかし、即答しないあたり、もしかしたら本当に言葉の意味を知らないのかもしれない。そう思った俺は強気で攻めることにした。


「博識……ねぇ。だったら、その意味を答えてもらおうか!」


「……変態」


 ぐはっ。

 好きな人に向かってゴミを見るような目をする女子小学生がいるかよ。

 まぁ、そのリアクションを見るに、エマはちゃんと意味を理解して使っているのだろう。出来れば理解していて欲しくなかった。

 俺はため息をつきながらベッドの上に座る。エマの隣だ。


「エマ。俺は高校一年生だ。お前は?」


「小学五年生」


「あぁそうだ。だからこそ駄目なんだろ」


「はぁ?」


 はぁ、とは。

 年齢を気にしないタイプなのか、エマは本気で分かっていないようだ。

 かくいう俺も、実は何が問題なのかは分かっていない。

 俺が先に成人するとはいえ、今はまだ未成年同士だ。そういう付き合いでも特に問題はない――なんてことはない――のだが、やはり、五歳下の幼馴染を異性として見るのは難しい。性的な目で見るなんてもっての外だ。


「あぁ、そういうことね」


 エマはふと口を開いた。一体どういうことだ。


「性行為は、たとえ相手が十三歳以上十六歳未満だったとしても、行為者が相手よりも五歳以上年長である場合は未成年淫行に該当するという法律のことを言っているのよね?」


「もっと駄目じゃねぇか」


 しかも俺そんなの知らなかったし。博識は本当だったのか。

 だとしたら……エマは十歳で、俺は十六歳。いや、うん。そもそもがアウトなのだけれど。


「ならお互い成人越えないと無理だろ」


「成人越えたら付き合ってくれるの?」


「無理。ていうか意味が違うだろ」


 付き合うじゃなくて突き合うだろ――と突っ込もうとしたけれど、セクハラになりそうだからやめた。


「大体、俺は……」


 そこで、俺は言葉を詰まらせる。

 ――お前のことを異性として見れない。

 それは、エマを傷付ける言葉だ。


「……犯罪なんて御免だ」


「バレなきゃいいのよ」


 さっきから思ってたんだが、エマのキャラ、変わりすぎじゃね?

 告白の時は「コウちゃん、好きです。つきあってください!」とか、小学生らしい口調だったじゃないか。

 ……もしかして、アレは演技か?

 やはり、最近の小学生は恐ろしい。

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