第7話

 夜の八時過ぎに夕食を済ませて、民宿に戻った。


 ご夫婦はにこやかに玄関口にて迎えてくれる。


「あ、お帰りなさい。居酒屋さんに行っておられたんですね」


「はい、行ってきました。えっと、アカミーバイだったかな。お刺身を食べまして」


「お、そうですか。アカミーバイは石垣島のおすすめの魚さあ。お口に合いましたか?」


「ええ、新鮮で美味しかったですよ。な、夕凪?」


「はい、八重山そばも食べたんですけど。アカミーバイ、凄くあっさりしていて美味しかったですよ」


「そうか〜、しまんちゅの魚は新鮮で美味しいさね。さにしゃんさあ」


 またも、石垣島の方言だ。私は当然ながら、奥様を見る。


「あー、さにしゃんは「嬉しい」って意味ですよ。石垣島ではそう言うの」


「そうなんですか、ありがとうございます」


「すみませんね、旦那は根っからの島人しまんちゅでね。時々、地元の言葉が出てしまうんです」


 奥様は本当に、申し訳なさそうにする。私は苦笑いした。


「いえ、勉強になります。もうちょっと、石垣島の言葉を覚えてから来た方が良かったですね」


「あら、嬉しいわあ。けど、無理はしなくていいですよ」


「はい、じゃあ。部屋に行きますね」


「そうさね、もう夜の八時だ。シャワーを使ってください」


「分かりました」


 雄介が頷くと、私も同様にした。二人で玄関口から、中に上がる。靴を脱いで部屋に向かった。


 雄介が先に、シャワー室に行く。私はお風呂セットをスーツケースから出したり、メイクを落としたりと細々した事を済ませた。しばらくして、雄介が戻って来る。


「……あ、夕凪。シャワー上がってきたから、お前も入って来いよ」


「うん、分かった」


 頷いて、早速シャワー室に行った。先に部屋に奥様が来て、シャワー室の行き方を教えてくれていたが。思い出しながら、二階から一階に降りる。確か、ちょっと奥まった場所にあるんだったか。何とか、たどり着くとドアを開けた。脱衣場に左手側には浴室に続くガラス張りのドアがある。脱衣場のドアを閉めて、持ってきた荷物は床に置く。服を脱ぎ始めた。


 しばらく、シャワーを浴びて髪や体の水気を拭いた。有り難い事に、バスタオルがあった。なので、それで髪の毛を拭きながら脱衣場に出る。

 引っ掛け棒にバスタオルや使ったフェイスタオルを掛けた。荷物の中から、着替え用のシャツなどを出す。着替えたら、使ったフェイスタオルなどをナイロン袋に入れる。一通りすると、忘れ物がないかチェックした。済ませたら、部屋に戻ったのだった。


 部屋に着くと既に、雄介は布団を敷いていた。民宿では自身で何もかもをやらないといけない。そう言う事を忘れていた。


「あ、戻って来たんだな。夕凪の布団も敷いておいたぞ」


「ありがとう、ちょっと洗面所に行って来るね」


「分かった、もう九時過ぎてるからさ。俺はもう寝るな」


「はーい、おやすみ!」


「おやすみ!」


 雄介はそう言って、向かって右側の布団に入る。数分もしない内に眠ってしまった。私は部屋に備え付けてある洗面所にて、お化粧水などを塗ったりした。まだ、乾いていない髪も軽くドライヤーの風に当てる。二十分もしない内に済んだが。また、スーツケースなどに使った道具を仕舞い込む。翌朝に使う洗面セットなどを出した。


「……こんなもんかな」


 小さな声で呟く。とりあえず、荷物を整理したら。布団に入り、就寝したのだった。


 翌朝、朝の五時過ぎに目が覚めた。雄介もだが。


「……おはよ」


「おはよう、雄介さん」


 雄介は確実に眠そうだ。私も若干、眠いが。先に昨夜に出しておいた洗面セットや着替えを持って洗面所に行く。手早く、歯磨きや洗顔を済ませた。後片付けをしたら、着替えもする。部屋に戻ると雄介は荷物の整理をしていた。


「……終わったみたいだな」


「うん、後はメイクだけだよ」


「分かった、俺も歯磨きとかしてくる」


 頷くと雄介は洗面セットらしき物を持って、部屋を出て行く。私はメイク道具や鏡をショルダーバッグから出した。

 メイクを始めたのだった。

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