第4話

 私達はまだ、飛行機の中にいた。


 と言っても、既に石垣空港まで後二時間を切っている。うたた寝をしていた雄介や怜、祐也さんも目を覚ましていた。


「もう、航空機に乗って三時間は経ったな」


「うん、朝が早かったからさ。私も眠たい」


「なら、寝てれば良かったのに」


 雄介は心配そうに言う。私は無理に、笑顔を作る。


「大丈夫よ、夜は早めに寝るから」


「……そう言う問題ではないんだが」


「雄介さん、私はそんなにヤワじゃないよ。一応、普段から走り回っているし」


 さらに言ったら、雄介さんは仕方ないと小さくため息をつく。そのまま、石垣空港に着くまでは取り留めのない話をしたのだった。


 やっと、エメラルドブルーの海に澄んだ空、燦々と降り注ぐ陽光の石垣島が見えてきた。南国らしく、白い砂浜もチラっと見える。また、アナウンスが流れた。


『今から、着陸態勢に入ります。座席からは立たず、座ったままでお願いします』


 言われた通りに座席から、立たないようにする。他のお客さん達も同じようにしていた。少しずつ、飛行機が高度を下げていく。また、体に重力と呼べる力が掛かった。縦向きに揺れて飛行場に着陸したのが分かる。飛行機はしばらく、飛行場の中を回っていた。少し経って、ピタリと停止する。再度、アナウンスが流れた。


『……石垣空港に到着しました。ご搭乗、ありがとうございます。良い旅を』


 それが流れた後、お客さん達が降りる準備を始め出した。私や皆も前の座席の下などに置いていた手荷物を取る。座席から、立ち上がった。出口へと向かったのだった。


 飛行機から降りて、石垣空港に続くゲートを通る。乗り場から、預け入れ荷物を取りにロビーに歩いて行く。ベルトコンベアーらしき機械が鎮座する所まで近づいた。代わりに、雄介と祐也さんが私や怜、自分達のスーツケースを受け取りに行ってくれる。二人が両手にスーツケースを持ち、戻って来た。


「ほら、夕凪。これ、お前のだろ?」


「うん、そうだよ。ありがとう」


「ほい、怜」


「ありがとう、祐也!」


 祐也さんも怜にスーツケースを手渡す。四人で空港の検査場に向かう。


 手荷物やスーツケースなどを調べられ、何とか事なきを得た。怜が引っ掛かりやしないかとヒヤヒヤしていたが。係員さん方はポーカーフェイスで応対していた。そして、空港を出て私と雄介は民宿に、怜と祐也さんはホテルへと向かうために別行動になる。


「怜、祐也さんと二人になるけど。気をつけてね」


「うん、夕凪もね。あたし達も調査を頑張らないと」


「祐也さん、巻き込んでごめん。怜が危ない目にあわないように、気をつけてあげてね」


「うん、夕凪さんもな」


「さ、あたし達はもう行くね。雄兄、夕凪に怪我でもさせたら。ただじゃおかないよ!」


「……へえへえ、分かってるよ。もう行け!」


 珍しく、雄介はしかめっ面になりながら言った。怜と祐也さんは苦笑いしながら、ホテルに向けて行ってしまう。私も雄介を促したのだった。


 民宿に着き、私と雄介は中年の夫婦に出迎えられた。ちなみに、民宿は「石垣の海」と言って外装こそ古い感じがしたが。内装は小洒落た感じで南国風の置物やカーペットなんかもハイビスカス柄で統一されていた。


「いらっしゃい、確か。予約しておられた光村さんと日野枝さんですね?」


「はい、俺が光村で。隣が日野枝さんです」


「そう、石垣島に来るのは初めてなんですか?」


「初めてですね、こんなに暑いとは思いませんでしたが」


「ははっ、確かに。こっちでは昼間は出歩かないのが普通です。観光に行くなら、夕方がおすすめですね」


 そう言って、民宿のご主人は快活に笑う。奥様もにこやかな表情だ。


「そうですか、あの。上がってもいいですか?」


「あ、すみません。俺が荷物を持ちますね!」


「じゃあ、私はお部屋へご案内しますね」


 ご主人が雄介や私のスーツケースを両手に持ってくれた。奥様は玄関口から上がった私達を奥へと案内してくれる。意外と中はクーラーや扇風機が稼働していて、涼しい。二人で民宿の廊下を進んだ。


「こちらがお部屋になります、お昼や夕食は近くに居酒屋さんがありますから。そこで済ませてくださいね」


「分かりました、居酒屋さんの店名を教えてもらえますか?」


「ああ、居酒屋さんは「うみんちゅ」って言います。ここを出て、右側にありますね」


「ありがとうございます、後は自分達でやりますんで」


「はい、じゃあ。私達は失礼しますね」


 夫婦はお辞儀をして、部屋から去って行く。スーツケースやショルダーバッグを置き、ひと息ついたのだった。

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