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仕事の依頼者として現れた日野森センパイの事、その日のうちにレイプされ写真と動画を盾に脅され、過去の事も来夢くんに言われたくなかったら大人しく従えと言われ従っていた事。

そして…私が日野森センパイの事を言わなかった理由も。


「本当は、日野森センパイの事を言えばよかったんです。でも、日野森センパイが、来夢くんに……私の写真や、過去の話をするかも知れないと思ったんです。そうしたら、来夢くんに嫌われると思ったんです。だから」

「言えなかったんだよね?」

「………はい……でも…」


言わなかった事が間違いだった。

結果的に来夢くんと離れる事になって、私は私でなくなった。

それでも、この家だけは守りたかった。


「ここは、私が唯一私でいられる場所なんです。先生と来夢くんと過ごしたこの場所は、誰にも汚されたくなかったから…」


昔は家よりも外の世界が居場所だった。

でも今は違う。

ここが、この家が、私の居場所だから。


「ありがとう宝。ごめんね、苦しい思いをさせてしまって」


来夢くんに抱きしめられる。

この暖かさが本物である事がとても嬉しい。


「わた、わたし、ずっと、ずっと来夢くんにこうして欲しかった、ひっく、うぅっ」

「ごめんね、遅くなっちゃって」

「ううっ、わぁぁぁん…!」


私はしばらく泣き続けた。



***



宝は泣き疲れたみたいで、気づいたら寝落ちしていたので、ベッドに運んだ。


(明日以降の事は…まあいっか)


しばらくは宝の傍を離れたくない。

あのクソ悪魔が言っていた事が事実だとしても、日野森とかいう男が家に来ないとは限らない。


――宝が目覚めて数日後。


『はぁ?宝が、何だって…?』

『だから、彼がその場に居た男たちに怪我をさせたんですよ。耳、悪くなりました?』

『嘘だ、宝が、そんな…』

『あのねぇ、インキュバスだって低級ではありますが悪魔なんですよ?特に彼はそっちの血が強いんでしょう?ならその力が出てもおかしくはない』


あくまで仮説ですが、と悪魔は笑う。


『まぁその後処理はこちらでしましたから。もうあの男が彼に近づく事はないと思いますよ。彼から近づく可能性はありますけどね』

『どういう事だよ』

『彼は自分の不始末は自分でカタをつけたいと言うと思いますよ?責任感強いですからねぇ』


宝の事だ、確かにそう言うに決まってる。


『貴方が彼をしっかり支えてあげて下さいね?でないと今度こそ私が頂きますよ?』

『死ね』

『そんな口聞けなくしてあげましょうか?』


ピリピリとした空気が病院の廊下に流れる。


『お前ら、ここがどこかわかっておるのか』


病室から現れた兄さんに、二人揃ってゲンコツを食らう。


『いったい!!何すんのさ!』

『病院では静かに!と、みのるが言っておったぞ』

『こちらは何もしてませんからね。弟さんの操縦はお願いしますよ、お兄様?』

『今ここで殺してやろうか?』

『二人揃って野蛮ですね。宝さんとみのるさんが心配だ。まあ私はこれで失礼しますよ』


そう言って悪魔は去っていった。

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