4-3

退院当日。

みのるは仕事が入ってしまったとの事で来れなかったが、鬼々さんと来夢くんが来てくれていた。


「宝、荷物持つよ?」

「来夢くん、そんなに心配しなくても…」

「ダメだよ、また怪我したらどうするの」

「そうじゃ、怪我人は大人しくしておれ」

(この兄弟、心配性すぎでは…)


完治しているのに、そこまで気にすることか?と私は思っているのだが、二人は最悪の最悪を想定しているらしい。

お言葉に甘えて、荷物を家まで持ってきてもらい、そこで鬼々さんとは別れた。

久々の我が家。

扉を開けると、あの日の――いや、そこにはいつもの風景が広がっていた。


「来夢くん、これ…」

「うん?」

「家、汚かったでしょうに」


あの時の私は、部屋を片付ける気力もなく、ゴミがあちこちに散乱していた記憶がある。

しかし、今目の前にあるのは、三人で暮らしていた時のような風景が。


「まあそんなことなんていいじゃん、荷物片付けよ」

「ありがとうございます…」

「へへ」



***



「宝、改めて。おかえりなさい」

「ありがとうございます」


綺麗になった自室で、来夢くんと向き合う。


「何だか、恥ずかしいです」

「何で?」

「ふ、二人きりになるのが久しぶりなので……」


今まで、二人なのが当たり前だったのに。

それが今は、恥ずかしくてまともに顔を見る事が出来ない。

入院中は来夢くん以外に人が居ることもあったから、あまり顔を見なくても何とかなったのに。


「宝、入院中も俺の顔まともに見てくれなかったでしょ?」

「そ、そそ、そん、そんなこと………」

「宝、嘘つくの下手すぎ」

「……………すいません……」

「でも、そんなところも好きだよ」

「えっ」


突然の告白に驚きを隠せなかった。


「宝は自分が好きじゃないかもしれない。けど、俺はそんなところも含めて全部、宝が好きなんだ。だから、少しだけでいい、自分に自信を持って欲しい。俺が宝を好きなんだって、もっともっと感じて欲しい」

「来夢くん…」

「俺、もっとちゃんと宝に伝えなきゃいけなかったよね」

「そんな、こと」

「あるよ。だって、もしバレたら俺に嫌われるって、軽蔑されるんじゃないかって思ってたよね、違う?」


図星だった。

だって、普通はそうじゃないか。

自分の恋人が脅されていたとはいえ、他の男と関係を持つなんて。

私なら、そんなの耐えられない。


「俺、少しだけ知ってたんだ。宝が何してたか。俺に何か言ってくれるかなって、勝手に思ってた」

「うそ…」

「知ってたってのも、俺が寝てから家出てた事くらいだよ?何をしてたかは知らないし、知りたくもなかった。何となく想像出来たし」

「どうして…」

「宝が助けを求めてきたら動くつもりだった。でも、いつまでも言ってこないし、まさかあいつを庇うなんて思ってなかったから」


少し、怒りを滲ませるような語尾に、来夢くんから別れを言われた日を思い出した。


「ご、ごめんなさ……」

「ごめん!その、怖がらせるつもりじゃなくて…何があったか、話せるなら話して欲しい。勿論無理にとは言わないから」


震えている私の手を、来夢くんが優しく握ってくれる。

私は覚悟を決めて、日野森センパイとの出来事を話した。

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