4-1

あれから一週間。

宝が目を覚ます素振りは見せない。

時々呻き声をあげる他は、綺麗に整ったまつ毛が寝息と共に揺れるだけだった。

その間もわしはずっと宝の目が覚めるのを待ち続けている。

それは、ただ宝が心配だからという事だけではなかった。

宝に確認しないといけない事があるからだ。

――恐らく宝は、人を殺めている。

わしは一度だけ宝が倒れていたという場所へ足を運んだ。

そこは人気の少ない公園で、昼間だというのに薄気味悪い雰囲気が漂っていた。

宝が倒れていたであろう場所からは、宝だけでなく、他の者の血の匂いがした。

何があったかは分からないが、何も無かったという訳では無いだろう。


(あの悪魔が言っておったな。インキュバスとて悪魔である事を忘れるな、と)


何があったかを確認しようも、当の本人はまだ目覚める気配はない。

まあ聞いたところでどうするのかと言われると、別にどうする事もないが、もしも宝が故意で誰かを傷つけていたと言うのならば、また同じ事が起きる可能性がある。

もしも、宝がみのるに牙を剥くのなら、わしは力ずくでも止めるつもりだ。

それがもし殺意に変わるのならば、みのるが止めようとも殺さねばならない。


「そうはならぬとよいが…」


宝の頬を撫でる。

痛々しい傷は、幾分かマシにはなってきてはいるが、まだ完治まではいっていない。


「早う目を覚ませ。来夢もみのるも心配しておる」



***



(ここは、どこだろう)


暗くて、深い闇。

どこまでも続く暗闇。

光など見えない。


(そうか、私は…)


あの後、何があったのかを思い出す。

私の中の悪魔が、目を覚ました。

自分が死ぬのではという恐怖から、あの場に居るも

のを傷つけた。


(私は、人間ではない。人間の血が少し混ざっただけの悪魔)


こんな半端な生き物は生きているべきではない。

死んだ方がマシだ、そうに決まっている。

でも、今自分の肉体が死んでいないのだけは分かる。

目覚めたあと、自分はどうするべきかと考える。

傷害罪で逮捕されて、裁きを受けて。

その後は、またこの間みたく心を殺して男の精を貪って生きていくのか?


(嫌だ、そんなの)


でも、そうしないと生きられない体なのだ。

それは死ぬまで続く。

そんな私を受け止めてくれていた来夢くんは、もういない。


(会いたい、会ってちゃんと謝りたい)


来夢くんの事を想うだけで涙が止まらなくなる。

自分から切り捨てた癖に。


「会いたい…」


泣いて俯いていたところに、一筋の光が見えた。


(神様、許されるならもう一度、彼に会わせて欲しい)


私は少しだけ見えた、一筋の光に手を伸ばした。

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