3-7
家に帰ってきてから、来夢くんに話を聞く事にした。
「来夢くん、何があったか教えて欲しい」
「みのる……」
今にも泣き出しそうな来夢くんをなだめる。
「ゆっくりでいいから、ね?」
「うん…」
***
「そっか…来夢くんも辛かったよね」
「俺はそんなに……。でも、兄さんの言う通りだよ。今の俺には、宝を見てやれる資格なんてない。宝を一番傷つけたのは俺だ」
彼は自分を責めている。
自分が別れようなどと言わなければ、こうはならなかった筈だと。
「来夢くん、俺は端くれだけど、理学療法士として仕事をしています。だから、貴方の気持ちはとても分かります。でも、自分を責めても何ともならない。行動を起こしたのは兄さん自身だから」
「でも……」
「事情を伝えなかったのも兄さんだ。ただ、来夢くんを信用していないから、っていう事じゃないのはわかって欲しい」
兄さんは昔からそうだった。
自分の事が、自分を産んだ両親が、普通に人間らしく生きていた俺の事が、嫌いで嫌いで仕方なかった。
でもそれは、来夢くんと出会ってから変わった様に見えた。
見えただけだったのだろうか。
「とりあえず、兄さんが目覚めるまで待とう?幸い命に別状は無いんだし、ね?」
「うん…」
「それまで家に帰りたくないならうちにいてくれたらいいし」
「それは大丈夫。家、綺麗にしとかないと宝に怒られちゃう」
お邪魔しました、そう言って来夢くんは帰って行った。
「来夢くん、大丈夫かな」
兄さんの事は、鬼々さんが見ると言ってくれていたし、甘える事にしよう。
「ふぁ…ねむ………」
俺は明日に備えて寝る事にした。
***
久々に帰った家は、前とは全く違っていた。
キッチンやリビングはゴミで溢れ、宝の部屋は私物で溢れかえっており、几帳面な宝のいた家とは思えなかった。
唯一変わっていなかったのは、先生が使っていた書斎と、先生の仏壇が置かれている部屋だけだった。
どれ程体と心が壊れてようとも、ここだけは守りたかったのだろう。
(ここまで追い詰められてたなんて)
俺は、その間何をしていた?
宝の事を忘れようと必死になって、色んな奴の所に転がり込んで、逃げていただけだった。
「そりゃ兄さんにあんな事言われるよね」
情けない。
今の俺には、宝に会う資格なんてない。
でももし、また、宝に会えたなら、帰ってきたその時の為に。
(とりあえず、片付けるか)
大好きな宝を迎えられる様に。
宝の居場所を作る為に。
俺は、家の片付けを始めた。
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