2-4
みのるは必死に鬼々さんを止めようとしてくれているが、やはり人間と異種族では力の差がありすぎる。
人間では敵わない。
「みのる、私は兄として何も出来ませんでした、申し訳ありませんでした。謝っても許される事ではありません」
「そんな事ない!鬼々さん、兄さんの事離して!」
鬼々さんはみのるの言葉を無視し続ける。
「来夢くんに謝っておいて貰えませんか?今まで迷惑をかけて申し訳なかったと。こちらも謝って許される事ではないですが」
「兄さん!何言ってるの!!」
「みのる、父さんと母さんの事、頼みましたよ」
「やだ!せっかく久しぶりに会えたのに、そんな……」
みのるの目に涙が滲む。
「この家は好きに使ってください。私のお金は、来夢くんに行くようにしてあります」
「随分と手回りが良いな。もしや死ぬつもりだったのか?」
「否定はしません」
「ならここで苦しまずに殺してやる」
「鬼々さん!!」
「みのる、止めても無駄じゃ。こいつを殺した後に、来夢をやった奴も殺しに行く」
「だめ!そんなことしないで!!」
みのるは昔から人に優しい子だった。
人のために怒れる、優しい子。
それは今も変わっていなかった。
(死ぬ前に、弟に会えてよかった)
後悔はない。
いや、あるとすればただ一つだけ。
(もう一度、来夢くんと話したかった)
私が願ってはならない事。
でも私がいればまた同じことが起きるかもしれない。
私は何処にいても、何にもなれない厄介な存在だったのだ。
だから。
「一思いに、殺してください」
さようなら、みのる。
最後にこんな情けない姿を見せてすみません。
先生、少し早いですがそちらに向かいます。
怒らないでくださいね。
来夢くん、今までありがとうございました。
もし私が生まれ変わったら、私の事を見つけてくれますか?
愛してくれますか?
私は、貴方を愛しています。
だから、必ずまた─。
死を覚悟して、ぎゅっと目を瞑る。
しかしその時が一向に訪れる気配はない。
「止めじゃ」
「えっ…」
「貴様を殺せばわしは一生来夢に恨まれる。そんな面倒な事はごめんじゃ、死ぬなら勝手に一人で死ね」
そう言って、私の胸ぐらを掴んでいた手が離れる。
「どう、して……」
「死にたいと思うのなら、なぜ泣いておる」
「泣いてなんて─」
目を触ると、涙が、出ていた。
(ああ、私は─)
私はまだ、生きたいと思っている。
彼に─来夢くんに、会いたい。
ぽろぽろと涙が零れる。
止めたくても、止められない。
「すいません、わたし……」
「来夢の目が覚めたら呼んでやる。みのる、そやつのことは頼んだぞ」
そう言って鬼々さんは来夢くんの眠る部屋へ向かった。
「兄さんごめんね。鬼々さん、言葉でものを伝えるのが上手じゃないから…」
「いえ…」
どうぞ、とみのるがハンカチを渡してくれた。
こんな私と違って、本当に出来た弟だ。
「ちょっとどこかで話さない?あ、できたらで良いんだけど」
「そうですね…」
先生が生前お手入れをしていた庭に向かった。
先生はここで盆栽をお手入れをしたり桜の木を見るのがとても大好きだった。
カコン、と鳴るししおどしの音。
チョキン、と盆栽を切るハサミの音。
静かな風の音。
ここに先生との思い出が沢山詰まっている。
「─ここは、私の大好きで大切な場所なんです」
「そうなんだ」
「ええ。ああそうだ、みのる。先生にお線香をあげて貰えませんか?」
「先生…」
「ええ」
みのるに先生の話をして、仏壇の前に座る。
「先生、彼が私の弟です。人想いの凄くいい子なんです」
「えと、どうも…」
「自分からこうやって紹介出来る日が来るとは思っていませんでした。なんだか変な気持ちです」
生前にお会いしてほしかったです、と思わず言ってしまい、ついついふふっと笑ってしまう。
「兄さんの笑ってる顔、久しぶりに見たかも」
「そうかも知れませんね。あの時は…」
「俺が悪かったんだよ。兄さんの事、何も知らないでいたから」
みのるが先生にお線香をあげてくれて、それから今までの事を2人で話した。
私は先生と来夢くんとのこと。
みのるは鬼々さんとのこと。
これほどみのると話したのは久しぶりだ。
「みのる」
しばらく話していると、鬼々さんがみのるに声をかけていた。
「そやつ…名は何と言ったか」
「館山宝と申します。先程は無礼な物言いをして申し訳ありませんでした」
「宝か。来夢が目を覚ましたぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、宝の事を気にしておったからわざわざ呼びに来てやったぞ。有難く思…」
「鬼々さん言い方…」
「コホン、あー……」
「兄さん、とりあえず来夢くんのところに行ってきて上げて?」
「ありがとうございます!」
私は走って来夢くんの元へ向かった。
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