1-6

*描写あり



『にいちゃん!にいちゃん!』

『なんだよみのる』

『みてみて!おれ、テストで100てんとれた!』

『へーすげえじゃん!』


小学生の時は、自分とみのるは全く同じだと思っていた。

私が中学生になってから、全てが変わった。


『ふーっ、ふーっ』


毎日毎日毎日毎日。

身体の熱と疼き、何を食べても埋まらない空腹感。

そして、腹部に現れた淫紋。

この時初めて母がインキュバスであると聞かされ、私は家族を憎んだ。

そして、死にたくても怖くて死ぬ勇気すら持てない自分を。


『あっ、あんっ』

(しにたいしにたいころしてころして、誰か…俺は……)

『気持ちいいんだろ、この淫売!!』

『はい、きもちいい、です…』

(どうして俺ばっかり……)



***



「ん……」


ベッド…?

私は、いつの間に……。

そうだ、そういえば来夢くんと口論になって…。

横を見ると、私の布団の横で寝ている来夢くんの姿があった。

私が目を覚まして動いたのに気づいたのか、来夢くんも目を覚ました。


「んー…あ、宝、起きたんだ…」

「おはようございます、来夢くん」

「ん…はよ」

「こんな所で寝たら風邪引きますよ」

「誰のせいだと思ってんのさ。そうだ宝、昨日めちゃくちゃうなされてたよ。嫌な夢でも見た?」


この子は私の少しの変化でも気がつく、とても優しくていい子だと思う。


「そうですね。でももう大丈夫ですよ」


来夢くんの顔を見たら、嫌な気持ちが少し無くなった気がする。


「ホント?絶対嘘だ」

「本当ですよ、ありがとうございます。あと、昨日はすいませんでした」

「ホントだよ。もう、無茶しないでくれる?そんなんじゃセンセーも安心してあの世にいけないよ?」

「肝に命じておきます」

「だから今日は休みなね」

「お言葉に甘えます」


メシ作ってくるけど、一緒に下降りる?と聞いてきた来夢くんの後を私は追いかける。

よく見たら、服もパジャマに着替えさせてもらっていたらしい。

来夢くんがごはんを作ってくれていた時、家のチャイムが鳴った。


「出てきますね」

「ありがと」


ガラガラと玄関を開けると、先生の妹さんが立っていた。

先生からはお金のことで揉めてから没交渉だと聞いていた。

お別れの会の時に軽く挨拶を交わして相続の話をした程度だったが、何か伝え忘れでもあったのだろうか?


「おはようございます、どうかなさったのですか?」

「…………して」

「?」

「どうして私じゃなくてあんたみたいなのが遺産貰えるわけ!?おかしいでしょう!?」


やっぱりお金の話か。

少しだけマシになっていた気分が最悪になる。


「遺言書が全てです、お帰りください」

「ふざけないで!!」


その声に気づいたのか、来夢くんがキッチンからやってきた。


「またアンタか、早く帰れよ」


ドスの聞いた声で帰宅を促す。


「なにが聖人よ!聖人なら私にも金を残すでしょう!?」

「しらねーよ、あの人はあんたみたいなのが妹で可哀想だったなぁ。人生で一番の汚点なんじゃねぇの?」

「ちょ、来夢くん煽る様なこと」

「──ッ、黙って聞いてれば!!私知ってんのよ!!この秘書が男に体売ってたってこと!!なのに、なのに兄さんは……こんなのを……」

「あんた、言っていいことと悪いことがあンだろ」

「来夢くん、いいよ。本当の事だから」

「でも……」

「言いたい事はそれだけですか?ここは私と先生と来夢くん、″3人で″暮らしていた家なんです。この大切な場所を汚して欲しくないんです。私の事はどう言って頂いても構いません。ですが先生と来夢くんを馬鹿にするような事は言わないで頂きたい」

「他の人達に言いふらしてもいいってこと?」

「どうぞお構いなく。そんな事で先生の信頼が揺らぐことはありません」

「だってさ、残念だね」

「ふざけないで!!!私の事散々馬鹿にして!!!絶対に許さない!!!!!」


そう言ってバン!と玄関を閉めて出ていった。


「馬鹿にしてたのはどっちだっての。一昨日来やがれ、バーーカ」

「…怖かった……」


思わず腰が抜けてしまい、へたりと座り込んでしまう。


「お疲れ様。あんなに怒ってる宝見たの初め…いや昨日ぶりだね」

「来夢くん、あなた…」

「でも俺は、宝にああやって言って貰えて嬉しいよ」

「それは…そうです。来夢くんは何も悪くないのに。どうしてあの様なことを言うんでしょうか」


本当に信じられない。

昨日だって、あんなに私に気を遣ってくれて、今日だってご飯を作ってくれて。

こんなにいい子なのに。

なのに私は来夢くんが来た当初、大嫌いだった。

あの時の私は、恐らく妹さんと同じで、醜かっただろう。


「俺、最初宝に嫌われてると思ってた」

「うっ」


痛いところを突かれて、思わず言葉に詰まってしまう。


「でも今はそうやって思ってくれてるんでしょ?俺、嬉しいな」

「どういたしまして…」


来夢くんはふふ、と嬉しそうに笑う。


「じゃ、朝ご飯にしよ。冷めちゃう」


私は差し出された来夢くんの手を取った。



***



「ふぅ、終わった…」


お別れの会に来てくださった方の金額を確認して、お返事を送るリストを作り終えた。


「12時か。手紙は…明日かな」


一昨日、来夢くんに迷惑をかけてしまったし、また倒れる訳にもいかない。

背伸びをし、横になる。

遺影を見ると、まだ先生が居なくなった現実を受け入れられていない自分がいる。


「先生……」


すると突然、腹の奥が、淫紋が疼きだした。

最後に精液を体に入れたのはいつだったっけ。

確か、先生がお亡くなりになる前、来夢くんに貰った時だ。

時間も時間だし、来夢くんは寝てるだろうからと、自慰をした所で勿論収まる訳もなく。

体全体がどんどんと熱を帯びていく。


「はぁっ…だめ、なんとか、しないと…っ」


服が擦れるだけで、私の体は快感を得る。


「たすけ、て、来夢く……」

「呼んだ?」

「んあっ!ら、来夢くん、いつから……っ」

「ついさっきから。フェロモン、ドバドバ出てるよ」

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