第2話

 敬愛、親愛、友愛、家族愛、そして恋愛。

 いつの間にか区別するのも面倒になって、でも、捨てることもできなかった。


 私は、彼に恋なんてしてない。そんなもの勘違いだ。そう思いたくて。

 でも、うまくいかなかった。


 そして。

 それは多分、私のせいじゃない。




「彼氏がね、誕生日にプレゼントでくれたの!」

「いいなあー、あたしはまだ片想い」

 そんな会話を、必死に頭で一蹴する。

(下らない。高三にもなって恋愛なんて)

 そんなことを思いながら、視線はたった一人を探している。それも、十分以上にくだらない。


 彼の姿はまだない。いつもギリギリだけれど、ワザと時間を遅くしていること。私は知っている。だって、根は真面目なやつなのだ。


 だから、ほら。


「おいおい、相変わらずどこにいたんだよ」

「うっせ。俺も暇じゃねーんだよ」

「良い女子でもいたか?」

 嫌になる。必死で聞き耳を立てる自分が嫌になる。

「んなわけねーだろ」


 嫌になる。たかがそれだけで安心して、でもまだ勘繰っている自分が嫌になる。



 やがて、パチンと場面が変わった。



「やっほー。珍しいな、お前がこんな時間までいるの」

「講習があって。君も、なかなか珍しい気がするけれど」

 心の中がバクバクと、グルグルと忙しない。緊張で、いつも通りに話せているか不安になる。顔が熱い気がする。……なんでこんなところにいるのかが、気になる。

「じゃあね、また明日」

 興味なんて無いと見えるように、背を向ける。本当は引き止めて欲しかったなんて、思っちゃいけない。ツキリと痛むのも、シットリと気持ちが湿気るのも無視しなきゃ行けない。

 だって、意味がない。だから

「駅まで一緒に帰らね?部活のことで相談あってさー」

「……なんも奢らないよ?」

 だから、そんなこと言わないでほしい。ううん、言ってくれて嬉しい。そっけなくしかできないのが嫌で、でも重くも面倒にもなりたくない。楽しくて楽しくて、辛い。



 やがて、パチンと場面が変わった。



「ぶちょーってアイツのこと好きなの?」

「……は?んなわけないじゃん。ほら、さっさと基礎練習!」

 たった2秒の間。それだけで仮面を取り繕って、どうにか不意打ちをやり過ごす。

 普段なら。

 普通なら、もっと平気なのに。言い当てられた途端、体の中が混乱する。血液が勝手な方向に走り始めるような、焦りと期待。

(聞かれてないかな……まわりからは、どう見えてるのかな……)

 もし私の好意に気がついているのなら、アイツはとんだ策士でサイテーで大好きな人である。

 そう気がついても、気持ちはふわふわと青く弾けたままなのだから、始末に追えない。



 やがて、パチンと場面が変わった。



「ここの夏祭りすごいから。思い出に3年で来れてよかった」

「ほーんとそれな。ぶちょーもそう思うっしょ?」

「ぶちょーインキャだからレアなんじゃね」

「あー?ふっざけんなぁっ」


「おーい、みんな。ラムネ買ってきたぞー」


 カランとなるラムネの音が。

 大好きな部活のみんなの声が。

 真夏で汗を吸ったワイシャツが。


 パチン。

 パチン。

 パチン。



 はじけて消えた。

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