温んだラムネ

こたこゆ

第1話

 カラン、と音がした。

 それは、私が入れた氷の音だ。百貨店で買った、安いけどかわいい形のコップに、カランコロンと涼が染みる。

 コロリ、と音がした。

 これは、キッチンに置かれた瓶の音。冷蔵庫で冷やされた蒼色のラムネ瓶の中で、ビー玉がコロリカラリと笑うように揺れる。


 蒸すと茹だると焦げるを全部混ぜたような暑さの中。コップに注がれたラムネがシュワシュワと弾けて消えるのを眺めて、私は長く息を吐く。


 ああ、これじゃほんとに——


「おぼれそう」


 言ってからハッとした。幸い家には私しかいない。聞いているのは、外でうるさく鳴くセミくらい。それでも、口の中が苦かった。


(くだらない。このラムネも、私もくだらない)


 心の中で言い切って、ラムネ入りのコップをテーブルまで運ぶ。

 ポタン、と結露した雫が落ちた。

 後で拭かなきゃ、と思う。けれど、それすら面倒だった。放っておけば、この熱さでいつか床板が腐るのだろうか。

 コトン、とテーブルが重さを知らせた。

 軽いのにちゃんと音が鳴るのが可笑しい。笑おうとして、失敗した。そう、馬鹿馬鹿しいのは私も同じだったから。


 セミの声。

 遠くの野球部の声。

 ラムネの弾ける音。


『相変わらず騙されてやがる!バカだよなあ』

『騙したの君じゃん!』


 そんな、どちらもバカな会話。


(ああ、好きだったのになあ)


 そんなことを思ったら、ダメだった。

 寝不足なんてするものじゃない。


 パチパチと、炭酸の爆ぜる音がした


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