第5話 イヤイヤ
魔物達が子育てに慣れ始めた頃…何度目かも分からぬ試練が彼らの前に立ちはだかった。城に響き渡る泣き声、散乱するおもちゃ、床に倒れるシャーロックとグルーア、ガクブルと震えながら柱に隠れるフォール…泣き叫ぶアレックスの周りをオロオロとしながら歩く魔王
「どういう状況ですか」
「よくぞ帰って来てくれた……救世主…!」
「はあ?」
買い出しを終えて帰城したフェルメは目の前に広がる光景に眉を顰めた。畏怖の対象である筈の魔王が今にも泣き出しそうにフェルメに縋り付き、アレックスを振り返る
「城の改築が終わった故、我もアレックスと遊ぼうとしたら大泣きされて手も付けられんのだ!」
「…はあ」
「お、おかえりフェルメ……その、シャーロックとグリーアはあやそうと近づいた所、至近距離で泣き声を浴び耳から血を出して倒れてしもうた」
「はあ…」
魔王と四天王の一角を担う者がこれで良いのかと考えつつ、彼は持っていた食材を魔王に押し付ける。外した白手袋と上着を倒れている同僚達の上に放り投げ床に座るアレックスへと手を伸ばした
「アレックス」
小さな肩をポンと叩けばアレックスは背後を振り返る。涙に濡れた大きな瞳にフェルメの姿を捉えると、アレックスは何かを訴えるように自身の周りに散らばるおもちゃを指差した
「なーなぃい!」
「ん…そのおもちゃは要らないんですか?」
「いゆぉお!」
「要る?なら何がないない?」
「なあああ…なないっ…ばばい!やああ!」
「うん」
ヒックヒックとしゃくりあげながら、何かを訴えるアレックス。その言葉に1つ頷き、フェルメは魔王とフォールを振り返った
「全く分かりません」
「んなっっ、お主だけが頼りなのだぞ!」
「分からないものは分かりません」
「情けないぞフェルメ。四天王のひとりであれば、この程度の事で音を上げるでない」
「柱の影に隠れてる野郎に言われたくありません」
「しっ……仕方なかろう!いつ消滅させられるか分からんのだから!」
「敵意を向けなければいいだけですよ」
「んねえええ!ななぃいい!」
「はいはい、今度こそ要らないんですね?」
「いゆぅよおお!!」
「要るんですね」
「いやぁぁあ!」
「はいはいはいはい、イヤなんですね」
「ばっばい、ないぃいちあぁあ!」
「はいはいはい、バイバイないない違うんですね」
放り投げられたおもちゃを集めながら、ひたすらアレックスの言葉を繰り返す。全く役に立たない魔王とフォール、気絶ているシャーロックとグリーア、そして怒りながら泣き叫ぶアレックス。スキルが発動していない事は幸いかと思いはすれど、いい加減にして欲しいとフェルメはひとり頭を悩ませるのだった
「いいいいぁぁあー!!!」
「あっ……」
「フェルメェェ!!」
「頼みの綱がぁあ!」
これが
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