第4話 前途多難な子育て


魔族からすれば人間とは怪奇なもの…赤ん坊というものは更に奇妙な生き物だ。自分の身を守れないくせに危険な物に触れようとする。食事が欲しいと訴えるので与えれば吐き出す、泣き出す。排泄を終えた後に処理をしている最中にまた排泄する…手に取れるものは何でも口に含む、そして泣く




「うぁぁぁぁん」


「なんですか…貴方、暗いのが怖いなら寝ればいいでしょう……魔物にも睡眠が必要なんですよ…」




アレックスが魔王城へとやってきて早数週間……夜更けに響き渡る泣き声。ぐったりとした様子でフェルメは呟いた。床に座り込み、アレックスが横になっている揺りかごを一定のリズムで揺らす



「アレックス……お願いします、寝てくれ」


「ぁああ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁっ」


「なんで更に泣くんですか…」



どうにか立ちあがり揺りかごを覗き込めば顔を真っ赤にして涙を流すアレックスの姿。この生き物は一体何が気に食わないのだと考えながら、小さな身体をポンポンと優しく叩く


「ミルクは先程飲んだばかり……オムツも交換しました。あとはなんですか…」


問いかけた所で返ってくるのは泣き声だけ。……嗚呼、疲れる、意思疎通を図る事がこれほど困難だとは思いもしなかった。魔法をかけ防音対策をしているとはいえ、このまま泣かれ続けては精神的におかしくなる。フェルメはアレックスを抱き上げ、身体を流らしながら背を優しく叩いた


「ふ、ぇっ…え」


「……お望みはコレでしたか…」


抱き上げて僅か数秒、アレックスはピタリと泣きやみ安心しきった様子でフェルメに寄り掛かる。右手の親指をしゃぶりながら、ぼーっとした様子で己を抱き上げる男の姿を見つめていた


「なんです」


「…ぇへあ」


「なんですか…さっきまで泣いてたクセにひとの顔を見て笑って……泣き止んだならさっさと寝てくれ頼むから」


こっちは連日寝不足なんだ、ブツブツと文句を垂れながらも彼はアレックスをあやす事をやめない。時計へ視線を移せば真夜中の1時過ぎ…彼はハァと溜息を零す



「城に挑みに来る冒険者共が…粘り強い理由が少し分かりましたよ」



この赤ん坊を拾って来た魔王は、この子が少しでも住みやすいようにと城の改装に熱中。他の四天王は昼間は面倒は見てくれても、夜は夜襲に出払っている。名もない魔物達はアレックスのスキルに怯え世話など論外………昼も夜も含め主にアレックスの世話をしているフェルメは、手元の赤ん坊へ目を落とし呟いた






















明け方近く、ようやく眠りについたアレックス。夜襲から戻ったグリーア達の声に驚いたアレックスが泣き声をあげた瞬間、ブチッと何かが切れる音がした





「うっせえですよ!!静かに帰って来やがり下さいませ!!」


「うぉっ!…なんだお前そんなキレて………まて、悪い…悪い、悪かった」


「え、あ、ごめんね…」


「そんな事より見よフェルメ!アレックスの遊び道具になりそうなものが大量だ!」


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