第3話 必要物資を調達せよ


赤ん坊を育てるにあたり、まずは必要最低限のものを揃えなければならない。フェルメの言葉に3人は何がいるのかと問いかける


「最低でも赤ん坊の食事と衣類……あとはそうですね…この臀部に巻いてある布の代わりを大量に」


「そういやさっきからやけに臭うと思ったが、臭いの原因はこいつの尻か?」


「……おぇっ」


グリーアの言葉を聞き赤ん坊の尻に顔を近付けたシャーロックは、1つ息を吸うと鼻をつまんで離れた。


「大正解だよグリーア、臭いの原因はこいつだ」


「そういえば人間は赤ん坊の排泄物を親が処理するらしい」


顎に手をあて思い出したように言うフォールの言葉にシャーロックとグリーアはサァッと青ざめる。冗談だろと呟くグリーアだが、それに答えたのはフェルメだった


「事実ですよ。人間の赤ん坊は泣く事が仕事らしいです。排泄物はもちろんですが、食事も我々で与えなければなりません」


「一から十まで世話しないとなの!?」


「そうです」


「無理だ」


「やれ」


ガクッと項垂れたグリーアにピシャリと言い放ちフェルメは再び赤ん坊を抱き上げる。抱き上げられた赤ん坊は「ぱっ、あーう」と喃語を話しながらフェルメの顔をペタペタと触っていた。


「……そういえばその赤ん坊、名前はどうするの?」


「…名前」


「赤ん坊で良くないか」


「それだと成長したあとに困る」


「シャーロックが言うまで考えてませんでしたね。そもそもこの赤ん坊に名前はあるのかどうか」



何処かに名前は書いていないのだろうかと赤ん坊をぐるぐると回してみると、臀部に巻いてある布地になにやら文字らしきものが綴ってある事に気づく。然しこの文字を全て見るにはこの布を剥がさなければならない…となると、誰がこの強烈な臭いを放つ布を剥ぎ取るか。四人の思考は一致し、フェルメは再び机に赤ん坊を置きなおす



「恨みっこなしのジャンケンで決める!」


「良いでしょう。負けたものがこの布を剥ぎ取る、それでいきますよ」


「やはりこうなるか…!」


「絶対に勝つ…!!」



負けられない戦いがここにある。全魔力を拳に集中させ、「ジャンケンポン!」と四人は一斉に手を出した。結果は…シャーロックの1人負け


「クッソォオ!」


「残念でしたね。そういえば人間の間では言い出しっぺの法則というものがあるらしいですよ」


「知らないよっ…!」


「まぁてめぇが言い出した事だ。頑張れよ」


「頼んだぞシャーロック」


ガクッと項垂れていたシャーロックはフォールに背を押され、赤ん坊の前へと移動する。机の上に寝そべり、指をしゃぶりながら足を動かす赤ん坊に恐る恐る手を伸ばし、下半身に巻かれた布を剥ぎ取った。刹那、部屋中に充満する排泄物の臭い。四人は一斉に鼻をつまみその場へ膝から崩れ落ちる


「これは…もはや兵器ですよ…」


「目がつーんとする…!目が、つーんとする!」


「シャーロック!はよう、名前を確認してくれ!」


「無理無理無理!臭すぎる!」


「男なら四の五の言わずに最後までやり切れ!」


「グリーアの根性論本当に嫌い…!」


「しかしシャーロック、巻き直さなければその分だけこの臭いに苦しめられる事になります。素早く確認して布を巻き直すのが懸命かと思いますがどうでしょう」


「分かったよぉお…」


メソメソと泣きながら、シャーロックは布を文字を確認する。なんやかんやと言いつつ、その後ろから他の三人もそろーっと顔を覗かせた。幸いにも刺繍部分は汚れておらず、すんなりと文字を読む事が出来た。綴られていた文字は"アレックス"……確認ができるなりフェルメがシャーロックを押し退け再び布を巻き直す


「…っ…はぁあ」


「臭かった…まだちょっと臭いけど、さっきよりはマシだ」


「赤ん坊の名前はアレックスか…」


「…勇者らしい名だな」



とりあえず難は去った、と思ったのもつかの間。胸を撫で下ろす四人とは別にそれまで大人しかったアレックスが泣き声をあげる


「臭いの次は音ときたか!」


「うぁああ!すごいうるさいっ!」


「何故泣き出したのだ!」


「恐らく汚れた布を巻き直したからかと!」



頭に響く泣き声に四人は思わず耳を塞ぐ。黙らせようにもその方法が分からない四人は何も出来ないままその場に蹲ってしまった。城中に響いているのではないかと言わんばかりの泣き声、これがずっと続くのは不味いとフェルメは指先を動かし、取り出した紙に魔法で文字を綴っていく。必要な事を書き終えるとその紙をそれぞれの前に放り出し「至急調達するように!」と指示をだした


「その紙に必要なものをメモしました。貴方達で調達して来てください!」


「これ全部??!」


「そうです!一つでも欠ければ貴方達の命がないと思ってください!」


その言葉に三人は首を縦に振り部屋を飛び出していく。残されたフェルメは小さく息を吐くと、叫びにも近い泣き声を上げ続ける赤ん坊を抱き上げ、城の最上階へと続く階段へ足を進めた




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