第2話 緊急会議

魔王城の二階にある薄暗い一室で数人の魔物達が机を囲み顔を合わせていた。物々しい雰囲気に包まれた中、蝋燭の灯火がフッと消える


「だァァ!またやりやがったあのクソガキ!!」


「フェルメェェエ!!貴様ちゃんとその赤ん坊捕まえてろと言っただろう!」


「あははっ、真っ暗だ〜」


シャーロックの笑い声とは別に放たれたのは怒声、ではなく悲鳴。フェルメがパチッと部屋の電気のスイッチを入れると、明るくなった部屋の中、二匹の魔物が椅子の上に膝を抱えて座っていた


「雰囲気出す為とか言って電気をつけないからこうなるんでしょう。赤ん坊はそこに繋いでありますよ。気に食わないのか唸ってます」


「んゔゔゔゔ!!」


「あはははっ、めちゃくちゃ嫌そうな顔してるじゃん!…ていうか、二人はなんでそんな椅子の上で膝抱えて座ってんの?」


「その赤ん坊が何処から触れて来るか分からん故にな!」


「こうしていればそのクソガキは俺達に触れねえからな!」


「…四天王が聞いて呆れる」


「あははははっ、情けねえ〜」



溜息を吐き席につくフェルメ。腹を抱えて笑うシャーロック。クソガキ、と赤ん坊を指差すグリーア。ブルブルと震えながらも胸を張るフォール。彼等は魔王軍の中でも飛び抜けた実力の持ち主であり、四天王と呼ばれている魔物達だ。彼等が集まり会議を開いている理由は他でもない、部屋の隅に繋がれた赤ん坊……基未来の勇者についてである。



「魔王様が拾って来やがったこの赤ん坊についてですが、今後どうするか話し合わなければなりません」


「え〜、もうやっちゃおうぜ。こんな赤ん坊、一捻りだよ?」


「てめぇは魔王様の意思に背くのか、シャーロック」


「そんな事いってませーん」


「わ、吾は別に?怖くなどない故、魔王様の仰るように今すぐ消さずとも良いと思うがなっ」


「ビビってるくせに」


「ビビってなどおらん!」


「ふーん、ならそこに繋がれてる赤ん坊に触ってみてよ」


「何故そのようなことをしなければならんのだ!」


「怖くないならできるでしょ?ほらタッチ、タッチ!」


「手拍子をやめい!」


「うるさいぞお前ら!シャーロック、話が進まねえだろ!」


「じゃあグリーアがやれば?」


「なんでそうなる!」


とはいえど、仲が良いという訳でも無い彼等。集まったところで話がすんなり進む事はほとんど無い。ギャーギャー騒ぎ始めた三人を傍観していたフェルメはおもむろに立ち上がり、赤ん坊を繋いでいた縄を解き、机の上に赤ん坊を置いた。刹那、机から距離をとるグリーアとフォール。フェルメは赤ん坊の頭に手を置き三人を睨み付けた



「この手を離したら誰から消滅しますかね」



ドスの効いた声で吐き捨てるフェルメに三人は小さく「ごめんなさい」と謝罪を述べ、背筋を伸ばして椅子に座り直す。赤ん坊はキョトンとした様子で机の中央に座りながら四人を見ていた



「…では話を戻します。この赤ん坊についてですが、魔王様は始末する気はないようです」


「じゃあ人里に戻すしかなくない?」


「然し魔王様は未来を視た上で拾ったのだろう。であれば人里に戻すのはコチラ側にとってマズイのではないか」


「そうだろうな。…となると道は一つになる気がするんだが?」


「…まぁ、もう分かっているとは思いますが、ここで育てる事になりますね」



グリーアの言葉に続けるように言うフェルメ。それを聞いた三人は正気か?と声を揃えて机の上に座る赤ん坊へ目を向けた


「…百歩譲って育てるのは良いとしよう。だが俺達に人間の子供を育てられると思うか?」


「…というかその赤ん坊に触れられるのは現時点でフェルメのみであろう」


「え、ていうか、そうなるとだよ?こっちは命懸けで将来的に敵になる勇者をわざわざ手塩をかけて育てないとならないわけ?魔王様マゾなの?」


「魔王様の考えはこうです。人里に戻さず我々で育てればこの勇者が我々に牙を剥く事は無くなる、我々が壊滅させられる未来を防げる…とのこと」


「……あぁなるほど…人里に戻すとこの赤ん坊は勇者として育ち、俺達を滅ぼしに来るんだもんな。ここで育ててしまえば、その未来はなくなるわけか」


「…だが…それでも、スキルはどうするのだ」


「それに関してですが、やはり発動条件がありました。この子が敵意を感知した場合のみスキルが発動するようです」


「じゃあ敵意を向けなければ、消滅させられることはないって事?」


「そうですね。ほんと普通に接していればいいだけです」


「………何故それが分かった?」


数泊置いて、ちょっと待てと問いかけたフォールに対しフェルメはサラリととんでもない事を言う


「そこら辺にいた奴等で試しましたからね。ほとんどは消滅したんですが、数匹は消滅しなくて……その数匹の魔物達は敵意というより恐れを抱いていた為に消滅せずに済んだみたいです」


「……試したの?」


「えぇ」


「部下で、か?」


「この際、使えない奴等を片付けようかと」


「……冗談であろう?」


「事実ですが?…無能は必要無いでしょう?」



しれっと言うフェルメに三人は顔を強ばらせる。この男だけは怒らせまい、と彼等が再度決意した瞬間だった。その後、赤ん坊は魔王城で育てる事とする、と結論が出た

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