第33話 結婚式①

 日々はあっという間に過ぎていき、とうとう結婚式前日の日が訪れた。

 あれからマルクは自力で動けるまでには回復できたが、左目の視力は戻る気配はないそうだ。その為眼帯を作る事になり、イーゾルがせっかくだから自分で作る! と張り切った結果、黒い布製の眼帯が出来上がったのだった。

 マルクはそんなイーゾルお手製の眼帯をすごく気に入り、ほぼ毎日のように着用しているのだと言う。


 私もレアード様も結婚式及び披露宴に向けて様々な準備を積み重ねてきた。この結婚は勿論契約によるものなのだが、結婚式自体は本物。だから結婚式は盛大に行われるし、カルドナンド国内外から多くの招待客がやってくる。それにウエディングドレスは代々王家で使用されてきた伝統あるものを着用するのだ。

 そんなウェディングドレスの試着は昨日終えた。サイズはほんの少しゆとりがあるけど、むしろそれくらいで十分良い。アクセサリー達の試着もばっちりだった。


 そして今はお昼。いつものように食堂にてレアード様と2人っきりでランチを頂いている。今日のランチのメインは鹿肉のステーキだ。このほかにも葉野菜と白身魚のソテーにポタージュスープとデザートが用意されている。


(美味しい……披露宴で提供される食事も楽しみだわ……)

「メアリー? 何かあったか?」


 披露宴で提供される食事についての妄想を繰り広げていたら、レアード様に声をかけられた。


「あっい、いや……その、明日の披露宴で提供される食事のメニューが気になるなって……!」

「ああ、そう言う事か。てっきり心配事でもあるのかと思った。それは楽しみな出来事だ」

「ふふっ……そうですね」


 ちなみにコックは招待客1人1人に対しアレルギーがあるかどうかの確認も行っている。幸いにも私に食物アレルギーは無く、その事はきちんとコックには伝えてある。だが招待客の中にはアレルギーを持つ人だっているかもしれないのだ。コックは大変だが、大事な部分だから頑張ってもらうしかない。

 そして女官達の仕事は会場のセッティングや招待客の誘導等々である。私は曲がりなりにも女官なのでセッティングの仕事にも携わっている。それにしてもはしごを登っての花の飾りのセッティングははしごから身体が落っこちてしまわないか怖くて中々に大変だったが……。


「ごちそうさまでした」


 ランチを頂いた直後は少し休憩する。それが終われば午後の職務に戻ろう……。と考えていたら食堂へ白髪の侍従が慌てた様子で入室してくる。ノックもしないのはなにか重大な出来事でもあったのだろうか?


「王太子様!お食事中申し訳ありません……! 諜報部隊からの報告によるとアンナ様が屋敷を抜け出してフローディアス侯爵家の屋敷に来ているそうです……!」

「なんだって?! フローディアス侯爵はどうしている?」

「そのまま屋敷に留まっているそうです。また、アンナ様は替え玉を用意していらしたご様子で」


 替え玉まで用意していたとは……。しかしながら屋敷を抜け出したとは、これ以上の重い処分を食らいたいのだろうか? それとこの2人には招待状は送っていない。だから仮に結婚式に来ても門番の兵士達に追い返されるだけだ。それに受付では招待状を見せる決まりになっているから、やすやすと式場には来れない……はず。

 でも何が起こるかは分からない。油断はしてはいけない。


(なんだか……怖くなってきた)


 諜報部隊からの報告によると、アンナは更に私を貶める根拠のない噂を流しているらしいとも聞いた。

 内容は私はウィルソン様やレアード様を誑かす女だと言う事。実際ウィルソン様は未練あるみたいだし、レアード様はこの通り。見方によっては私が誑かしていると見る事も出来るのが厄介な所だ。


「その噂、信じている者はいるのか?」

「半信半疑と言った具合でございます。貴族令嬢方の中にはメアリー様をあまり快く思っていらっしゃらない方も存在しますから……」


 私が快く思われていないのはおそらく2つ。1つ目は子爵家という身分、もう1つは離婚歴があるからだろう。

 その事を伝えると侍従はその通りで御座います……。とうやうやしく返事をした。


「愚かだな。メアリーを傷つけるような事は許さない」

「レアード様……」

「すぐさまフローディアス侯爵家からアンナ嬢を引き離し元いた屋敷へと送還せよ」

「それが……見張りの者達は皆、体調を崩されたご様子でして」

「は?」


 アンナには見張り役が複数いる。この間女性の兵士や女官に変わったばかりだが、彼女達は皆体調を崩してしまったようだ。


「本人達曰く、薬を盛られたかもしれない、と……今は修道院で療養しております」

「わかった。なら、追加で送るまでだ。無論増員してな」

「かしこまりました……」


 こうしてアンナをフローディアス侯爵家から引き離し、クルーディアスキー男爵家へと再び移送する事が決まったのである。

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