第32話 アンナ視点③
今、私はウィルソン様のいる屋敷に向かっている。早く少しでも距離を稼がないと見張りが追いかけてくる。
「もっとスピードあげられないのぅ?!」
「わかりました……!」
あれから見張りの兵士と関係を持っていたのが王太子様にバレたのか、見張りの兵士が女性になり、さらに女官も見張りを務めるようになった。全く堅苦しい事この上ない。
だから私は屋敷を抜け出した。だけどただ屋敷を抜け出したらお父様とお母様が罪に問われてしまう。だから近くの農民から私に似た女を替え玉にした。
(見張りを眠らせるまでは本当に大変だったけど!)
見張り達にお父様が前々から所持していた睡眠薬を大量に盛り、彼女達が皆眠った所で替え玉を用意して私は地味めな見た目となり屋敷を出る……。我ながら良い考えだわ!
(今も眠ってくれているといいんだけど!)
私はひたすら見つかりませんように! と祈りながら実家からフローディアス侯爵家へ向かう。ウィルソン様は今どうしているかしら?
(きっと、ひとりで寂しく暮らしているに違いないわ)
途中、暗くなってきたので御者にうながされて宿で泊まる事になった。本当は誰かに見つかるリスクが高まるから嫌だったけど、馬車に身を潜めるのも大変。なら宿でゆっくりしていった方がいい。
宿で部屋を借りれたのは良いけど、部屋は狭かった。納得いかない。けど仕方ない。受け入れるしかないと己に言い聞かせる。
すると、廊下から女性達の声が聞こえてきた。
「こないだの婚約パーティーすごかったわよね」
「噂で聞いたわ。王太子様に言いよって来たご令嬢の方々は皆婚約先がお決まりになったようで何よりだわ」
「王太子殿下はメアリー様にご執心のようね」
……何よそれ。メアリー様が幸せになるなんて……許せないわ。
「聞いた? ウィルソン様はメアリー様に未練があるらしいのよ」
「本当?!」
「ええ、アンナ様と関係を持ったのを後悔しているそうだと聞いたわ。結局アンナ様のご懐妊は嘘だったみたいだし」
「えっ、流産したんじゃないの?!」
「私も流産したとアンナ様ご自身がおっしゃったと聞いてはいるけど……」
我慢ならず、私は部屋の外に飛び出した。
「ねえ、あなたがた。その話もっと詳しく聞かせてくれるかしらぁ? それとメアリー様の話も気になるわよねぇ?」
話をしていたのはメイド服を着たもの達だった。聞けばこれから王宮に派遣される所だとか。
……良い考えが浮かんだわ。彼女達にメアリー様の嘘を吹き込むように指示しておこう。
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