「なぜここに来た、アンナ……」

「えへっ。ウィルソン様に会いたくて会いたくて……来てしまいました」

　ようやく慣れ親しんだフローディアス侯爵家の屋敷に到着する事が出来た。やっぱり私はここが一番似合っているわ！　あんなボロい洋館よりも、実家だったクルーディアスキー男爵家の屋敷よりもここが良い！　だって侯爵家の屋敷だから広々としていて外装も内装もきれいだもの！

　欲を言えば王宮にもいつかは住みたい所だけど！

「ウィルソン様。これからは一緒に暮らしましょ」

「アンナ……すまないが帰ってほしい」

「え？」

　何を言っているのウィルソン様。帰ってほしいだなんて……。私の居場所はここだったじゃない。

　邪魔だったメアリー様がいなくなってウィルソン様のそばは私のものになった。まあ、赤ちゃんが出来たって嘘もうまい事機能してくれたと思っている。

　しかし、目の前にいるウィルソン様の顔は暗いままだ。

「すまないが、今アンナをここに入れる事は出来ない。帰ってほしい」

「ウィルソン様……」

　そのままばたんとドアは閉められた。そして門番役の者がおかえりください。とだけ言ってあとは何も話しかけては来なかった。

「……何よ」

　だが、あの洋館に帰りたくはない。この近くには宿があるしそこにお世話になろう。ああ、でも宿ならお金がいるのか……。

　伯爵家の人達にも頼み込みたいけど、追い出されたらいやだものね……。

（宿屋の主人が男の所に行こう。そこなら色目を使えばただで居候させてくれるはず）

　そうと決まれば行き先は宿屋に決まり。勿論主人が男の宿屋だ。幸運な事にフローディアス侯爵家の屋敷からほど近い所にあったはず。

（ひいきにしていた所だし、ちょうどよさそうね）

　宿に入るとあの主人の男が出迎えてくれる。ちなみに男は30代後半のおじさんである。でも見た目は綺麗に整ってて身体つきも良いから汚らしさは全然しない。

　それに、この人のテクニックは素晴らしいものがあるのよね。

「アンナちゃんどうしたんだい？　確か謹慎処分だって……」

　さすがは主人。小声で話しかけてくれるのは気が利いている証拠ね。

「あの、しばらくここでお世話になっても構いませんかぁ……？」

　目を潤ませて彼を見上げる。これが私の十八番。こうしておねだりすれば大抵はどんな男だってどうにかなる。

　それにこの男はまだ独身で恋人もいなかったはずだから、邪魔はないはずだわ。

「わかった。じゃあしばらくここに住む？」

「！　ありがとう……！　じゃあ、一番広いお部屋にお願い！」

「ああ、実はそこは貴族の者が使っている所なんだ。なんでも王太子殿下の結婚式があるそうで」

「……」

　このタイミングでまたメアリー様。何よ、私はメアリー様の幸せなんか見たくないのに！

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい