第4話 離婚しましょう
「そこへ行けって事ですか?」
「そういう事だ。貴様がただのお飾りハズレ妻でフローディアス公爵からは愛されていない事くらい知っている。そのまま哀れに死を迎えたいなら行かなくても良いが」
……何だろう。もしかしてこの人、誰かから命令を受けているという事ではないよな? でもなんだかそのような気がしてならない。
「ねえ、あなた。聞きたいのだけれど。……私の誘拐はもしかして、誰かからの指示を受けてやってる? それともあなたが私をかわいそうだと思ったからやったの?」
「……痛い所をつくな。さすがはお飾りとはいえ侯爵夫人か」
「答えてください」
「俺からは言えない。すまないが」
リーダーはそう首を左右に振りながら申し訳なさそうに謝罪した。口止めされている、とかなら仕方がない。
「いえ、こちらこそ言いにくい質問をしてしまってごめんなさいね」
「謝らなくて良い。いずれこうなるとは思っていたよ」
(覚悟はしていたのか……とりあえずこれ以上聞くのはよそう)
そういえば結婚式を挙げてから1年が経過した時、処女であるのと相手が不倫浮気をしていれば、白い結婚として相手の合意が無くても離婚が認められる。
これで職業に就く事が出来たら私の居場所が出来る、すなわち離婚出来る……!
「では、また交渉がまとまったら部屋に来る。朝食を準備しているから後で届けさせるよ」
「はい。ありがとうございます」
リーダーはチラシを折りたたんでズボンのポケットの中に入れてから女性の盗賊と共に部屋を後にした。それから5分後くらいに朝食が先ほどとは別人の女性の盗賊によって持ち込まれる。
「どうぞ。口に合うかはわかりませんが」
(パンと野菜の切れ端のスープ、そして肉を小さく四角く切って焼いたものか……腐ってる様子も無いしむしろ思ったよりかは質が高いな)
「いえ、ありがとうございます」
パンは少し硬いがスープに浸して食べると柔らかくなって食べやすくなる。お肉もちょっと硬めだがベーコン位の硬さなのであまり気にならないし美味しい。
スープの味付けは薄め。でも薄すぎてまずいとかそういうレベルでもない。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「そうか、ありがとう」
私が食事を終えるまでドアの近くで待っていてくれた女性の盗賊はにこりと笑いながらお皿を下げてくれた。
(交渉はどうなっているだろうか……)
外から野鳥の鳴き声が響き渡るくらいで、部屋の外からは物音は聞こえてこない。静かな空気が流れているだけ。
「……暇だな」
本などは置かれていないので、何かして暇つぶしする事も出来ない。どうして時間を過ごそうかと悩んでいた時廊下から足音がこちらへと近づいてきた。
「失礼する」
「どうぞ」
入って来たのはリーダーだった。若い男性の盗賊2人もいる。
「交渉したが……フローディアス侯爵は身代金を支払わないそうだ」
「……そうですか」
ああ、やっぱりな。という感情と私よりもアンナの方がいいんだなという気持ちが湧いて出てきた。
辛い。胸が痛くて苦しい。分かり切っていた事なのに。
「……っ」
「侯爵夫人。そろそろ行こうか。職業案内所へと案内しよう」
私は立ち上がると彼らへと近寄る。そして茶色い羽織ものを貰って羽織ると倉庫の前に付けられた簡易な馬車に乗り込んだ。メイド達はもう既にフローディアス侯爵家の屋敷へ向けて出発していたようだ。
「では、幸運を」
「……ありがとうございました」
「礼には及ばない。貴様が良き人生を送れるように祈るだけだ」
(……?)
馬車がごとごとと進み、気が付けば職業案内所の前に到着した。私はここで降りて彼らへと礼を言うと案内所の右前に張り出された貴族令嬢向けの職業募集チラシへと目を向ける。
「これ、か……」
案内所の中へと入ると、女性のスタッフが驚きながらもこちらへとやってきてくれた。確かに今の私は羽織の一枚下は寝間着姿だ。びっくりする人がいてもおかしくはない。
「あの、もしかして募集の案内で来ましたか?」
「はい、そうです。良いのありませんか?」
「……王宮の女官はどうですか? フローディアス侯爵夫人様」
(私の名前知ってるの?! あ、でも知ってても不思議は無いか……)
なんで彼女が私を知っているのかは置いておいて、女官は求めていたものとぴったりではないか! 応募できるならぜひ応募したい所だ。
(ちょうど欠員が出たのかな?)
「それです。女官応募したいです……!」
「ではそのように今からご連絡しますね。答えが来るまでこちらでゆっくり時間潰していてください」
スタッフから敷地内にある小さな図書室へと通され、そこで本でも読みながらくつろいでいると、体感約2時間後私の前に男性のスタッフが現れた。
「合格です。ぜひ明日からどうぞ。と王太子殿下が申されました。こちら証明書などの書類になります」
「えっもう?! 決まったの?!」
いや、早くないか?! そんな短時間で決まるものなのか?! それに私は直接レアード様とお会いした訳でもないのに……!
(私がお飾り妻だって事、レアード様にも知られているとか? いや、それだけの理由でこんな短時間で決まるとは思えないけど……)
しかし、女官と言う新たな居場所を得られたのは事実。私は書類を受け取り案内所の人達にお礼を言ってから徒歩でフローディアス侯爵家の屋敷へと戻った。
屋敷の門番役とメイド達は私が帰って来たのを喜んでくれたが、ちょうど玄関の近くにいたウィルソン様は一瞬だけ驚きながらもすぐに不機嫌そうな表情へと戻る。
「どうやって戻って来たんだ」
「歩いて戻ってきましたわ。ウィルソン様。そして結論から申し上げて頂きます。私達、離婚しましょう」
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