第6話 家族風呂で大接近!?
◯家族風呂-更衣室-
俺は男性用更衣室で水着をはき、上から館内着を着て家族風呂更衣室で美緒さんを待っていた。
コンコン、と控えめなノックが聞こえた。
引き戸が開くと、美緒さんが荷物を持って現れた。
「お待たせ。君が言ってた通り、館内着の下に水着着てきたんだけど……。合ってるの?これ。」
合っている、と思う。なにしろ、俺も混浴なんて初めてなので自身はない。
「っていうか、君ってば。いつの間に貸切サウナ付きの家族風呂なんて予約していたわけ?『水着をもってこい』だなんて、怪しいなとは思っていたけど……。(小声:それなら、もっと可愛い水着を用意したのに…………)」
事前に伝えていたら、引かれると思ったのだ。俺はサプライズだと誤魔化した。
「っていうか、家族風呂なら、サウナも温泉も裸でいいわけじゃない?なんで水着?」
俺は正直に答えた。
「えっ?…『初デートなのに、いきなり素っ裸でお風呂に入るのはハードルが高い』…だって?」
美緒さんにがっついていると思われたく無かったのだ。
「まさか一緒に温泉に浸かるなんて思っていなかったけど…でも、私は別に水着なんか着なくったって………。」
どんどん尻すぼみになっていく美緒さん。俺が聞き取れずに聞き直すと、慌てて訂正するのであった。
「ううん、何でもない!」
そして、切り替えるように美緒さんは話題をそらした。
「そろそろ入ろっか?……じゃあ、館内着脱ぐよ?」
俺はささっと館内着を脱ぎ、海パン一枚になった。
美緒さんはこちらの目線を気にしながら、一枚ずつ館内着を脱いでいった。
「……もう、君、見過ぎ!そんな目で凝視しないでよぉ!」
ネイビーのシックなカラーリングの水着が、美緒さんの柔らかな白い肌を強調している。食い込むゴムの上に少し乗った肉が、美緒さんの肉付きの良さを表していた。
「………君さぁ、今『美緒さんって着痩せするタイプなんだ〜』……って思ったでしょ。気にしてるんだから。身体が弛んできたの。」
しょげる美緒さんを励ますべく、俺はむしろもっと好きになったと答えた。
「……君って、むっつり助平?」
ジト目でこちらを見る美緒さんも、また良いものである。
◯家族風呂-浴室内-
(※浴室内は声の反響有)
カポーン、と風呂桶の音が浴室内に響く。狭く、湿度の高い浴室はあらゆる音を反響させた。
温泉掛け流しのようで、新しい湯が常に湯船へと流れている。(以後SE続く)
「わぁ、凄い。このヒノキ風呂!贅沢だね〜〜。一度入ってみたかったんだぁ!……なんだか、やさしいにおいがする……。ヒノキのにおいなのかな。」
確かに、普通の風呂に比べると香しいにおいがする。まるで森林にいるかのような気分だ。
「お湯に浸かる前に……掛け湯しなきゃね。岩盤浴でいっぱい汗、かいたから。……そうだ!私が君の身体を流してあげる。」
美緒さんに流してもらうなんてとんでもない。いい、自分でできると強がった。
「なーに照れてんのっ!ほら、こっちにいらっしゃい!座って、座って♪」
美緒さんに捕まってしまい、俺は大人しく風呂椅子に座った。
「はーーい。いきますよ〜〜?」
風呂桶に汲んだお湯を肩から流した。(SE)少し熱いけれど、心地良い温度だ。
「……熱くない?」
俺は丁度良いと答える。桶の湯が空になると、再び美緒さんは湯を汲んで2杯目を掛けてくれた。(SE)
「じゃあ……次は交代。はい、よろしくね♪」
美緒さんは俺に桶を手渡すと、くるりと背を向けた。長い髪を頭頂部付近でお団子状に結わえ、白いうなじが目に入る。きれいなうなじの形に思わず目を奪われる。
「……?どうしたの?はやく。」
まさか美緒さんのうなじに見とれていたとは言えまい。俺は、先ほど美緒さんがやってくれたように、ゆっくりとお湯を掛けた。(SE)
「ちょっと、熱めだね。気持ちいいけど。」
俺は2杯目を掛ける。彼女の白い肌を、湯が流れ落ちてく様子を目に焼き付けるように眺めた。
「ありがと。これで、お湯につかれるね。……お先にどうぞ。」
かけ湯を済ませ美緒さんに促されるまま身体を湯船へ沈めると、体の体積分の湯が湯船から溢れ出した。(SE)
「おじゃましまーす。」
そこへ、美緒さんも入ってきた。つま先からゆっくりと静かに湯船へと身体を沈めていく。湯船から美緒さん分の湯が、溢れて浴室の床に広がった。(SE)
「はぁ~~~~~。気持ちぃね~。……。やっぱ、日本人に生まれてよかった。こうして温泉の良さを味わえるんだから。」
「……ねぇ、そんなに離れちゃって勿体ないよ。折角の家族風呂なんだからさ。……もっと、そっちに寄ってもいい……かな?」
美緒さんがすすす、と近づいてきて(水面が揺れるSE)俺にぴったりとくっついた。俺の左腕に、美緒さんがきゅっと掴まる。……俺に触れている白い柔肌が、湯の中で揺らめいて見えている。俺は直視できなくて、遠くを見た。
「……ねぇ、幸せってこういうことなのかな?好きな人と、一緒のお湯につかって、お喋りするの。……日々の忙しさを忘れてこうしていられるのって、なんだか良いね。」
俺は美緒さんを見つめた。美緒さんも俺の事を好いてくれていて、こうして一緒の風呂に入っていることを「幸せ」だと思ってくれている。俺と美緒さんは、同じ幸せを共有しているのだ。その事実に、俺は美緒さんとの将来への明るい兆しを見出すことができたのだった。
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