第4話 岩塩浴でプチハプニング!?

〇岩盤浴ゾーン


クールダウンが済んだ俺達は、再び岩盤浴ゾーンへとやって来た。


(かん、かん、と軽快にすのこ上を歩く足音SE)


「おっとっと……岩盤浴の為に靴下持って来ていてよかったぁ〜!素足だと、火傷しちゃう人もいるから無理せずに靴下を履くのがおすすめだよ♪……君は裸足で熱くないの?」


 心頭滅却、火もまた涼し。

 熱いに決まっている。俺が熱いのを我慢しているのを美緒さんは愉快そうに笑った。

 

「あははっ。タップダンスしてるみたい♪」


 床に敷かれた鉱石が、歩くたびにジャリジャリと音を立てた。(足音SE)

 足元がアンバランスだ。

 

「きゃっ!」

(美緒が転ぶSE/派手なジャリジャリ音SE)


 バランスを崩した美緒さんが、俺の腕に捕まった。


 汗ばんだ肌同士が触れる。美緒さんの柔らかな掌の感触――

 滑らかで、線の細いてのひら。

 強く触れると、壊してしまいそうな華奢さだ。


「ご……ごめん。体勢崩しちゃった。」


 俺は平静を装い、美緒さんの身体を支えて起こしてあげた。


「ありがと…」


 美緒さんは真っ赤になりながら、俺から離れた。


「ーーーーっ。恥ずかしー…。さっき変な声出ちゃった。」


 俺としては普段見られない美緒さんの姿である。


「……もっと聞かせて欲しいだって?もう!」


 照れながら怒る美緒さんも乙なものである。


~時間経過~




〇岩盤浴ゾーン‐岩塩浴‐


 美緒さんがむくれるプチハプニングもあったが、なんとか無事に寝転び場に到着した。

バスタオルをバサっと広げ、(SE)身体を横たえていく。


「さっきの、平らな床をしたゲルマニウムの岩盤浴も良かったけど、こっちの岩塩も良いね!ちょっとゴツゴツしてるけど、マッサージされてるみたいで気持ちいい♪……」


 俺もこの感触は好きだ。最初は慣れなかったが、心地よさが勝った。


「……ねぇ、君も感じる?岩塩が発する、このマイナスイオン!……『分からない?』……あはは、目には見えないからね。そりゃーそうだ。でも、遠赤外線も目には見えないけどなんとなく肌で感じない?……こう、なんていうか……じりじりする感じ?本当はバスタオルなんか敷かずに直に寝転んでもっと直に感じたいけれどね。」


 それは大丈夫なのか?と頭に疑問符が浮かぶ。


「あ、でもでも。バスタオルが無いと汗が鉱石の上に残って、次に使う人が嫌だなって思うから。マナーだよね。」


 よかった。美緒さんは常識人だった。こんな熱い石の上に直接寝転んだりしたら、低温火傷を負うかもしれない。その判断力があるようです安心した。


「マナーといえば」


 美緒さんは話を続ける。


「私がよく行く温泉施設の岩盤浴は、備え付けの漫画の持ち込みがOKなんだ。私も、追いかけている漫画があるから楽しみにしてるの。あの、しわしわになったページをめくる感触が大好きで。……けど、ここみたいに休憩室には漫画があるけど岩盤浴ゾーンには持ち込み禁止の施設もあるから、気を付けないとね。」


 確かに。俺も最初は持ち込めないのかと落胆したが、岩盤浴でリラックスする時くらい、何もしない贅沢を味わうのも良いことだと思うようになった。


「勿論、携帯電話やスマートフォンの持ち込みはNGだよ。……なんでかわかる?………それはね、第一に盗撮を防ぐ為!ほら、こんな薄着じゃ、ヘンな気を起こす人だっているかもしれないし。自撮りのつもりが、他の人が映っていてトラブルになるのは嫌だもんね。……例え撮影目的じゃなくても、持ち込むのは個人のプライバシーを侵害する恐れがあるから、気を付けないといけないね。でも、施設によっては持ち込みOKなところもあるから、施設のホームページを事前にチェックすることをおすすめするよ。まぁ……岩盤浴って高温多湿だから、そもそも電子機器の持ち込みは向いていないんだけどね。故障してもあくまで自己責任だね。」


 美緒さんはモラルがちゃんとある人だ。俺は美緒さんの話を感心して聞いていた。


「はぁ、一気に喋り過ぎた……。そろそろ出て、休憩しよっか?」


 俺もそろそろ水が飲みたい。俺たちは岩盤浴ゾーンを後にした。

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