第2話 ゲルマニウムの岩盤浴

〇岩盤浴ブース


 俺と美緒さんは休憩所から移動してきて、岩盤浴ブースにやってきた。

 この「天然温泉スーパーSPA」のウリの一つに、岩盤浴の種類の多さが挙げられる。


「へぇ、こんなに岩盤浴の種類がある温泉施設、珍しいね。薬草の香りと効能が期待できる、むしろを敷いた岩盤浴。トルマリン鉱石を使った岩盤浴。聞いたことのない奴もあるよ。……こんなにいっぱいだと……どれに入るか悩んじゃうなぁ……。君はどの岩盤浴が好きなの?」


俺は少し悩んで、気に入っている岩盤浴を伝えた。


「……ふぅん、このゲルマニウムの岩盤浴が好きなんだ。じゃぁ、最初はそこにしよっか。」


 「ゲルマニウム房」と書かれた札が掛かっている小部屋のドアを開くと、(ドアopen SE)むわっとした空気が放出される。

 俺たちがスペースに向かい歩くたびに、床はペタペタと音を立てた。きれいに磨かれて床はつやつやとしていて、清潔感がある。

 受付でもらった大きなバスタオルをバサッと広げ、熱された床に敷き、俺と美緒さんは並んで横になる。客は、俺と美緒さんの2人だけだ。


「やった、貸し切り!平日だからかな?……よっ……と!うん、湿度も温度もいい感じ!さすが君のお勧めだね♪」


 スパが趣味の美緒さんのお眼鏡に叶ったようで嬉しくなる。


「2人きりで……。贅沢だねぇ……♪はぁ……♡気持ちぃ~……♡」


 美緒さんのため息がすぐ間近で聞こえる。身じろぎするたびに、衣擦れの音が聞こえる。


「でもでも、他のお客さんがいる時は黙浴がマナーだよ!でも今は……2人だけ、だから♪ちっちゃな声でお話ししようね……?」

  

 俺はこくこくと頷いた。


「そうそう……。この床に使われているゲルマニウムといえば……。肩こり解消に使われる市販の一般医療機器が有名だよね。岩盤浴では使われる鉱石の鉄板だね。……知ってる?ゲルマニウムには血行促進や疲労回復の効果があると言われていて、岩盤浴と相性が良いんだって♪こうやって、温かい床に寝転んでいるだけで……はぁ~♡健康になっていく感じがするよ~。そう思わない?……ふふっ。君、汗だくじゃん。」


 俺の真横に汗だくの美緒さんが居る。胸の高鳴りは、きっと熱いだけじゃない。美緒さんは風呂上がりですっぴんになるのを恥ずかしがったが、俺からすると、普段見ることのないあどけない表情がより一層魅力的に見える。


美緒さんは、俺の額の汗を指で拭った。


「ふふっ……♪ホントに凄い汗だね♡」

 

 改めて指摘されると恥ずかしくなってくる。汗っかきなのが昔からの悩みなのだ。

 


「……岩盤浴って、こういう鉱石の効果に期待するのもアリなんだけど、単純に身体が温まることに意味があると思うんだよね。体温が上がると免疫機能が向上するからさ。それに、血流がよくなることで腎臓の動きも活発になると体内の老廃物を排出する機能が高められるの。一石二鳥って感じ?……ほら、鉱石から発せられるこの遠赤外線!これによってじわじわ〜っと、ゆ~っくり体の芯から温まることができるのよねぇ。特に冷え性に悩む女性にお勧めしたいよね。お母さんにも勧めてみようかな……?」


 確かに、この空間にいるだけで健康になっていく気がする。プラシーボ効果かもしれないが、汗をいっぱいかけるのは気持ちがいいものだ。この行為こそが健康に直結するようだ。


「それに、ほら……腕をみてごらん?……この汗。サラサラしているでしょ?これはね、皮脂腺から出た汗なの。体に溜まった老廃物や毒素が一緒に流れていくのを感じるね♪……一説によると、このデトックス作用によって美肌効果が期待されているんだって!温泉ソムリエの中には、この汗はお湯で洗い流さない方が良いって意見を唱える人がいるくらい。」

 

 美緒さんが意地悪っぽく微笑む。


「ねぇ、どうしよっか……??これ以上私がキレイになったら……?」


…… 俺を困らせようとしている。俺が恋愛に奥手だからって、美緒さんはからかっているのだ。


「……あははっ♪冗談だよ。何、本気にしてんのっ。」


 美緒さんは俺が困っているのをみて満足げな様子だ。

 

「……そろそろ出て、お水飲みに行こっか?」


確かに、喉が渇いている。美緒さんの言う通り水分補給のタイミングかもしれない……。俺たちは岩盤浴ゾーンを後にした。

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